第9話

 俺は気が付いたら、またマンションのリビングのソファーに寝ていた。本を胸元に置いたまま眠り込んでいたらしい。


「パパ。どっか行こうよ」

 俺は声のする方を見た。息子が傍らに立っていた。黄色いTシャツを着ていた。愛が地球を救う番組で着ているやつみたいだった。ひげが伸びて口の周りが青くなっていた。


「でも、もう夕方だし…どこに行きたいんだ?」

「ポケカ売ってるかコンビニに見に行きたい」

「今、品薄なんだろ?」

「うん。でも、たまに買えるところもあるよ」

「いくら買ってもきりがないじゃないか」

「だって、ほしいんだもん!」

 

 息子がせがむ。


「じゃあ、帰ったら勉強するか?」

「うん」


 息子はもう18歳だがまだ小学校の範囲をやっている。足し算はわかるが引き算ができない。引くという概念がわからないのだ。字はなんとなく読めるが、フリガナがないと意味がわからないということだった。


 でも、今は平仮名が読めるし、ちょっと字を書くこともできる。Lineも送れる。こうやって、色々なことができるようになったのは、こつこつと積み重ねて来たからだ。


 俺は着替えて一緒に行くことにした。

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