第5話

 俺は次第に息子の夢を見たいと思うようになっていった。

 俺の隠し子だ。俺は得意になる。俺の唯一の子どもだ。


 実際の俺は浮気は一度もしたことがなかった。理由はチャンスに恵まれなかったことが大きいと思う。もてる人なら女性から言い寄られることがあるかもしれないが、俺は自分から女性を口説くってことがなかったから、結婚して十年以上誠実で良き夫のままだった。


 夢の中の息子は知的障害で精神面にも問題がある感じがした。あの妻から生まれたのだったら、そうなってもおかしくない。俺はその子が俺たちの子だと当たり前のように認識していた。妻には見えていないらしいから、俺の妄想に過ぎないと思う。妻は子どものことは忘れて、新しい子どもを授かろうとしている。今まで一度も薫のことを話したり、供養したことはなかった。


***


 実は薫を堕ろしたのは妊娠22週以降を数週間過ぎてからだった。それ以降は、どんな理由があっても産まなくてはいけないことになっている。そうなってしまった理由は、俺たちが無知でバカだったからだ。堕胎には期限があるというのは、常識だろうと思うだろうけど、童貞と処女で付き合ったから、妊娠するということが実感としてわからなかった。昔はインターネットが普及していなくて、口コミや図書館で調べるなどの方法でしか知識を得ることができなかったせいもある。俺も妻も勉強ばっかりして来たタイプだったから、余計に無知だったのかもしれない。


 しかも、闇医者を紹介してくれたのは、妻の親だった。やはり、学生結婚はあり得ないという感覚だったのだろう。俺は妻が堕胎手術をしたのが正規の医者でなかったことは長い間知らされていなかった。


 どうやら、中絶の場合でも妊娠12週以降は死産届が必要だということだが、こういった手続きを全くしていなかったようだ。俺の唯一の子どもは完全に闇に葬られてしまったのである。それなのに、位牌があるのはなぜだろうか。その辺がよくわからない。妻の家ではなんとなく罪の意識を感じていたんだろうか。


 もしかして、妻は産みたかったんだろうか。俺自身にもためらいはなかったのか。あまりよく覚えていない。もし、生まれて来ていたら、夢に出てくる子のようにちょっと障害があったのかもしれない。なぜかわからないけど、俺の子どもはきっと幸せになれない気がしていた。


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