それは酷く不安な静けさのような
「大丈夫ですか?キツいなら今日は休んでも・・・」
「あ、ううん。そういうのじゃ無いから。大丈夫」
隣で心配そうな顔をする一二三さんに笑顔で返した。
翌日、学校に向かう途中で私は昨日の雄大さんの事を思いだしていた。
あの人はきっとまた現れる。
でも、なぜかもう一度話がしたい。
私にあんな事をしようとした人なのに・・・
そんな事を考えていると、目の前を歩く山岡さんに目がとまった。
「山岡さん、おはよ・・・」
声をかけられた山岡さんは私を振り向くと、すぐにギョッとした表情になりそのまま立ち止まった。
「おはよう。山岡さん・・・だっけ?」
一二三さんの言葉に山岡さんは曖昧な笑顔で頭を下げる。
一二三さんと橘さんとの事が耳に入っているのだろうか。
「そんな人殺しでも見る目しなくてもいいじゃない。蒼ちゃんにちょっかい出さなかったら、みんな友達と思ってるくらいなのに」
「一二三さん、もういいよその事は。あの・・・山岡さん、私やっぱりあなたともう一度お話しできたらと思うんだけど」
「・・・彼との事?あれはもういいよ。私もムキになっちゃったし」
「じゃあ、また前のように・・・」
でも、山岡さんは返事をせず困ったような顔をして、そのまま歩き去って行った。
肩を落とす私に一二三さんは軽く背中を叩いて言った。
「彼女も引っ込みが付かないんですよ。難しい年頃ですよね」
「え?・・・一二三さんも高校生じゃん」
「私?あはは!違いますよ。私、こう見えて28歳なんですよ」
え、ええ~!
信じられない。
呆然としている私に一二三さんはニヤニヤしながら言った。
「生まれ持った童顔に感謝ですね。さすがにヤバいかな~とは思ったけど、先輩がクラスメイトするのに比べたら良くないです?」
「ま、まあ・・・」
何と返事したら良いのか・・・
しかし、違和感ないのが凄い。
そんなこんなで教室に入り、授業開始になった。
だが、入ってきた先生は学年主任の首藤先生だったので、クラス無いが軽くざわめいた。
「みんな静かに。後藤先生は急なご家庭の事情があり、退職された。なので今日から代わりの代用教員の先生を紹介する。ではどうぞ」
「いくらなんでも急じゃない?」
「ありえないでしょ。無責任」
そんな声がクラスのあちこちから聞こえる。
急な事情って・・・
だが、そんな疑問は入ってきた新しい先生の姿を見た途端、吹き飛んだ。
その人・・・雄大さんは、堂々とした様子で教卓に歩み寄ると、私たちを見て言った。
「今日から半年間、皆さんの担任代理をすることになった遠藤雄大です。よろしくお願いします」
私は呆然としながら雄大さんを見たが、彼は私の方を見ようともしない。
一二三さんを横目で見たが、彼女は無表情でじっと雄大さんを見ている。
こういう可能性は充分にあるはずだった。
でも、考えないようにしていた。
でも実際にこの状況になると、激しい不安が襲ってくる。
休み時間になると、私はすぐに一二三さんの机に行った。
「あの人・・・担任なんて」
「まあ、充分に可能性はありましたが思ったより早かったですね」
「でも、先生なんて・・・目立ちすぎじゃ」
「でも、強引に事を進めるには却って好都合かもですよ。とにかく、お昼休みになったら先輩のところに行きましょう。ま、最もとっくに接触があるかもしれませんが」
そうだ。
私はあの時と違って、常時一二三さんと九国さんがいる。
そんな事も知らないはずが無いのに、どうしようというのだろう。
その時、携帯のバイブが振動したので驚いた。
九国さんかな。
でも、あの人は授業中に連絡なんてまずしない・・・
お父さんもお母さんも居ない私に、連絡する人なんて思いつかない。
授業が終わったら出ようと思いそのままにしていたら、再度鳴り始めた。
さすがに気になったのでドキドキしながらこっそり確認すると、山岡さんからのラインだった。
それを見た私は頭が真っ白になった。
そこには「あなたのそばに居る人を信じてはいけない」と書かれていたのだ。
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