それはまるで白昼夢のような
二人は黒いスキー帽の様な物をかぶり、ゴーグルを着けていた。
その格好は以前テレビで見たどこかの国の特殊部隊の様に見え、最初私を助けに来てくれたどこかの軍隊なのでは?と思ってしまった。
私・・・助かる?
だが、近づいてきた二人は私の右腕を掴むと、無理矢理ソファから引っ張り上げた。
その痛みに思わず悲鳴を上げると、もう一人が低い声で言った。
「静かにしろ。俺たちに着いてこい」
私は訳が分からず首を小さく横に振ると、その男性は私の髪を強く引っ張った。
「これは提案じゃ無い。命令だ。間違うな」
痛い・・・
私は頭の痛みと、二人の威圧感に足が震えていた。
「もういい。適当に気絶させていけばいいだろ。ナンバーナインが戻る前に済ませないと俺たちは終わりだ」
「しばらくは大丈夫だろ?さすがに手練れの連中5人相手だぜ。まだ20分はいけるんじゃないか」
「上手くいって殺してくれたらなら有り難いが」
「さすがに厳しいでしょ?目の一つかせめて指一本でも無くしてくれてればラッキーだ」
ナンバーナイン?
話しの流れから言うと・・・九国さん?
だが、すぐにそんな悠長な事を考えて居るどころでは無くなった。
二人が私の口にテープを付けて、何かスプレーの様な物を出した。
直感的にあれを受けてしまったら終わりだと感じ、身体が激しく震え出す。
嫌・・・助けて!
私は身体を丸めて亀のように身を縮めたが、その途端右脇腹の激しい痛みを感じた。
強く蹴り上げられたのだ。
まるで目の前に火花が飛んだようにチカチカした光が舞い、同時に今まで感じたことの無い鈍い痛みと胃から内容物がせり上がりそうになる不快感で、床に転がったまま目を閉じて何度も咳き込んだ。
「おい!戻ってからゆっくり吐かせるのを忘れたのか。使い物にならなくなる」
「悪い」
「お前は感情的になりすぎる。早くスプレーを・・・」
もうダメ。
どうなっちゃうんだろ。
私は苦痛で気が遠くなりながら男の声を聞いていたが、次の言葉が一向に聞こえてこなかった。
そして、次の瞬間何かが倒れるような鈍い音と共に、男の悲鳴が聞こえた。
え?
私は恐る恐る目を開けると、そこには男の一人がうつ伏せに倒れていた。
首にはナイフが刺さっていた。
この人・・・
私はその人の姿ともう一人の男の悲鳴を聞きながら、まるでテレビの中の場面を見ているように他人事みたいな目で見ていた。
この人・・・死んでる。
その直後、私の耳に聞き慣れたあの声が聞こえた。
「お嬢様、目を閉じて耳を押さえて。今から起こることを見ないでください」
声の方に目を向けると、ドアの所に九国さんが立っていた。
「ナ、ナンバー・・・ナイン。なんで・・・早すぎる」
「あら、早く戻ってはご都合の悪いことでも?ごめんなさい。お取り込み中に」
だが、しゃべっている内容とは正反対にその表情は怒りで堅くなっていた。
九国さんは、涙を流しながら床に寝転がっている私を見た。
「戻る途中もマイクで中のやり取りは聞こえました。17歳の女の子にする事ではないですね・・・こんな事を」
そう言うやいなや、九国さんの姿が目の前から消え、次の瞬間男の脇腹に回し蹴りを入れていた。
男はくぐもった悲鳴を上げると、床に転がったがその直後九国さんは男の両手の甲にそれぞれナイフを突き立てた。
そのため、両手が床にナイフで留められた形となり激しい出血と悲鳴と共に男は動けなくなった。
私は目の前で行われていることが、まるで白昼夢のように感じられた。
何・・・これ。血が・・・沢山。
「『ゆっくり吐かせる』ですか。気が合いますね。私もそうしたいと思っていたんです・・・あなたに」
そう言うと九国さんは、両手の甲に突き立てられたナイフを勢いよく踏みつけた。
その途端、男の口から耳をつんざくような絶叫が聞こえた。
「助けて!助けてくれ!」
「あなたのバックは誰?なぜここが分かった?斎木蒼をなぜ狙う?この3つに速やかに答えなさい」
そう言うと九国さんは私の方を見て言った。
「お嬢様。一つ大事なお願いがあります。今から私が良いと言うまでこれを着けて頂きます。音楽が流れてるイヤホンです。そして目を閉じて・・・」
だが、その必要は無かった。
目の前の倒れている人。
そして、聞こえ続ける悲鳴と流れる血。
自分の身に降りかかった暴力。
それらの事実を私の脳は処理仕切れなかったらしく、九国さんの声を聞きながら目の前が暗くなっていくのを感じ、やがて真っ暗になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます