第23話
二人仲良くオムライスを頬張った後、空色が真っ黒に染まり夜も更けてきた。咲愛は丁度お風呂から上がってきて、特等席である僕の膝の上に乗ってくる。
頭にバスタオルを乗せたまま座った咲愛。一応拭いては来たようだがそれでも少し濡れたままで、完全には乾いてない。
「じっとしててね」
最初の頃は上手く出来ずに咲愛を逆に泣かさせしまった僕も今は慣れた手付きで髪を乾かす。咲愛はそこまで長くはないとはいえ、女の子だから慎重に扱う。
「ねえ、お兄ちゃん」
「んー?どうしたの?」
「いつもありがと。咲愛のワガママ、いっぱい聞いてくれて」
「珍しいね。咲愛がそんなこと言うなんて、一体どうしたの?」
なにか気に障るようなことしちゃったのかな……?
「えっと、ね。いつも言えなかったから」
「気にしなくていいのに……変なとこで真面目なんだから」
「えへへ」
でもそっか、いつも言いたかったんだ。父さんが生きてた頃に僕に口酸っぱく言ってきた感謝の言葉を、咲愛は守ってたんだな。
それに比べて僕は、そんなことすら忘れかけていた。
「どういたしまして。もう乾いたよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
咲愛の笑顔はいつ見てもやっぱり可愛いな。ついつい甘やかしたくなる程に。
母さんが仕事から帰ってくるまで、リビングでテレビを見ながら炬燵に入ってのんびりと談話。時間が進むにつれ、咲愛の頭は船を漕ぎ出す。
「眠いなら寝てもいいよ?」
「んーんっ……!」
母さんが帰ってくるまでは咲愛も待ってるつもりなんだろうけど、それ以上に睡魔が勝ってしまってる状態。
それにこうなってしまった咲愛は僕の傍を離れたがらない。
「せめて横になろっか。兄ちゃんはずっと傍に居るから」
僕の言う通りに横になった咲愛は、僕に抱き着いてすやすやと眠ってしまった。頭をニ三度程優しく撫でると、気持ち良さそうな表情へと変わっていく。
今は僕一人。聴こえてくるのはテレビの賑やかな音と咲愛のリズミカルな寝息。
「先輩……結局逢えなかった……」
最後に一目でも良いから逢いたかった。でも逢ってしまえば、今頃僕はどうしているのだろうか?分からない。
僕は炬燵の上にある自分のスマホを手に取り、待受画面を眺めていた。写っているのは僕と先輩のツーショット。
唯一先輩に関するものが残った一枚。はは……っ、僕いきなり撮られたからすっごい変な顔。
「今頃何してるんだろうな……」
一度も逢えずに帰っちゃったから多分怒ってるだろうな。
色々と考え込んでいると玄関から物音が聞こえ、急いでスマホをポケットに突っ込み、ドアに視線を送ると仕事から帰ってきた母さんだった。
「おかえり」
「ええ、ただいま。咲愛また寝ちゃってたのね」
「うん。凄く眠たかったみたい」
父さんが亡くなってからの母さんは今でも憶えてる。不慣れな仕事で失敗ばかりしていたのに、気付いたらもう部長にまで昇進。
だから僕は母さんと父さんの馴初めは聞いたことがない。
「ねえ母さん。父さんとどうやって知り合ったの?」
「うーん……そうね。今の咲愛と同じ時期に知り合ったかな」
ということは初めて会ったのは中学生。それからいろんな話を聞かされた。
初めての誕生日会に、部活動の応援、高校受験に進路と。
母さんは月日が流れるにつれ、父さんに惹かれていたようで同じ高校に受験するのに相当苦労したとか。
そして中学卒業と同時に告白。父さんは二つ返事で返して幸せに過ごしたそう。
「でもそれがどうしたの?」
「なんとなく、そういや聞いてなかったなって」
「……そうね。あの人が居なくなってから避けてたのかも」
母さんは未だに父さんの事を思い出すようで、時々母さんの辛そうな声と顔を何度か見たことがあった。
もう吹っ切れたと思っていたけど、意外とそうでもなかったようだ。
「航を見てるとあの人を思い出すの。すっごく似てるから」
そんなに似てるのかな……?父さんの写真と今の自分を見比べるけど、全然似てない気がする。
でも母さんはそうでもないらしい。違いが分かんないや。
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