第24話
翌朝。今日から冬休みに入った僕だが、習慣付いた時間に目が覚めてしまった。癖って怖い。
一足早めに入った咲愛はまだぐっすりと寝ているのだろうか?昨日は結構早く寝たからそうでもないか。
部屋着に着替えてから自室からリビングへ向かうと、丁度母さんが仕事の準備をしていた。
「あら航。おはよう」
「おはよう母さん。今日も仕事?」
「ええ、年末だから」
「あんまり無理しないでね」
分かってはいるとは思うけど一応。過労が原因で母さんまで倒れたら父さんに怒られちゃうからね。
無理の無い範囲で仕事を頑張って欲しい。
「会社の人にも言われたわ。でもそうね……今日は最低限にしようかしら」
「程々ね」
「ええ、じゃあ行ってきます」
母さんは仕事場へと家を出た。時計を見るとまだ朝の七時半で相当早起きしてしまったみたい。
軽く朝御飯を作ってのんびりテレビを見ながら時間を潰していると、ぬいぐるみを抱き締めた咲愛が起きてきた。
「おはよう咲愛」
「んっ……」
……あんな状態で昨日どうやってご飯食べたんだろう?でも咲愛の事だ。二度寝した後に食べたんだろう。
そう思っていたけど予想は大きく外れることとなる。
「……いただきましゅ」
寝惚けた顔でトーストを作って、イチゴジャムを塗って食べ始めた。最初は小さく食べた咲愛も半分ぐらいから目が醒めていって、いつもの咲愛に。
「あ、お兄ちゃんだ」
「咲愛も成長したんだね」
訳が分かってない咲愛は何の事やらさっぱりで、僕が頭を撫でる手を不思議に見つめていた。
いつまでも子供だと思われていた咲愛はぷくーっと頬を膨らませて、僕を睨み付けた。
「もう中学生だもんっ」
「ごめんごめん。そうだったね」
咲愛に怒られてしまった。だけど中学生になってたことを忘れてた僕も悪い。
身長はともかく体格はもう女性に近付きつつあった。
「咲愛、宿題は?」
「うっ……せっかく忘れようとしてたのに、意地悪」
「早く終わらせないとパーティー出来ないよ?」
「それはやだ!」
でもやりたくないと顔で訴えてくるも、僕はそれを許す訳もなく渋々部屋から課題を取ってきた。
古典に現代文、数学に英語と社会科。理科の方は既に終わってあるのが意外だった。
「いつの間に理科を……」
「昨日の内に何とか終わらせたの」
「偉いね咲愛」
「えへへー、でしょー?」
褒められてすっごく嬉しそうに笑みを浮かべる咲愛。
「じゃあ今日は英語やろっか」
と思ったら急に不機嫌な顔に。
「いじわるっ!」
「クリスマスまでに終わらせるからね?」
「ぶーっ!!」
とか言いながらも課題に取り組む咲愛。素は真面目な性格だから、ひと度スイッチが入るとさっきまでの抗議が嘘のように真剣な表情で取り組む。
分からないところは僕が教えてあげたりするから予定より早く終わりそうな感じ。物覚えも良いから一つヒントを与えてあげれば、難しいとされる問題も難なく解いてしまう。
「少し休憩しよう。本当に咲愛は凄いね」
「そう?えへへ」
「これだと明後日には全部終わりそうかな」
「じゃあ頑張る!」
ひょっとしたら咲愛は当時の僕より頭良いんじゃないかな?と思い、咲愛の成績表を見ると案外そうでもなかった。
全てにおいて平均的すぎて、僕がついてるからそう錯覚させたのかもしれない。ただ理科だけは突出していた。
「理科、好きなんだ?」
「うんっ!実験とか楽しいもんっ」
「そっか。咲愛は大きくなったら何になるの?」
「お医者さん!」
僕はその単語を聞いて衝撃を受けた。僕が今目指している夢の一つでもある医者に咲愛はなろうとしている。
でもどうして……?咲愛は父さんの事は憶えてない筈……。
「ママからパパの事聞いたの。咲愛がまだ小さい時に病気で死んじゃったって……だから、パパのような人を一人でも救ってあげたいなって……思って」
「咲愛……」
「咲愛はパパがどんな人なのか憶えてないけど、でも今からお勉強すればお医者さんになれるかなって……」
「兄ちゃんも応援する。一緒に頑張ろう」
たとえ僕が駄目だったとしても咲愛なら、必ずなれるとそう信じて疑わなかった。
だから僕も咲愛に負けじと勉強を頑張らないといけない。
「うんっ!」
いつかこの夢が正夢になるように。
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