第22話
あの日から数日が経ち、事ある毎に先輩は僕の元へやってくるが、僕は先輩から逃げるように避けてしまった。
川越さんも川越さんで何故か僕を避けるようになり、放課後はいつ振りかの一人。そんな日々を送っていたら気付けば二学期の終業式になってしまった。
「はぁ……」
窓の外の景色を眺めながらボーッとしてたら、急に先輩の事を考え始めて深く溜め息を吐いていると、大輝が話し掛けてくる。
「なーに黄昏てんだよ。らしくねえな」
「……大輝か。色々あったんだよ、色々」
未だに何故先輩が僕にキスをしたのか、何故泣いていたのか、いくら考えても分からずにいた。
二人に聞けば分かる話なんだろうけど……冷やかされるのは目に見えてるせいでなかなか切り出せない。
「村越君。最近元気ないね?どうしちゃったのよ」
「……まあ色々と」
上田さんは気には掛けてくれるけど、如何せん大輝との距離が近すぎて更に深く溜め息を吐く。本人は全く気にしてないだろうけど、見せつけちゃってさ。
「まあなんだ。何かあれば相談に乗るからな?俺達の仲を取り持ってくれた恩を返したいってのもあるが、一番お前を心配してるってことを忘れるな」
「うんうん。大輝に話しづらい事なら別に私でもいいよ?」
「二人ともありがと」
「じゃあ俺達、先に帰るわ。次逢う時はその変な面見せんなよ?」
二人は仲良く教室を後にし、教室内に残るのは僕と数人程度のクラスメイト。その中に川越さんも入っている。
が、何やら相談に乗って貰ってるようだった。
「……先輩」
僕は机の上に両腕を乗せ、更にその上に自分の頭を廊下の方へ視線を送る形で頭を置いた。別のクラスの人達が楽しそうに談話しているのを見て、虚しさがいっぱいになった。
「……逢いたいなぁ」
ボソッと呟いたその言葉は誰にも届くことはなく、僕の二学期生活の終わりを告げた。
帰路に就いても変わらないまま、時折壁やら電柱にぶつかったりしつつ。家に着いた僕は玄関前で僕の帰りを待っていた咲愛を見て、少しだけ口角を上げる。
「あ、お兄ちゃん!おかえりー」
僕を見つけるや否や僕の元へ駆け寄って抱き着くその姿はいくつになっても変わらない。一応咲愛の方が先に二学期が終えているので、今の咲愛はいつもの制服姿ではなく私服。
「ただいま。いい子にしてた?」
「うんっ!」
「そっか。もうお昼だし、兄ちゃんが何か作るよ」
「わーい!お腹ペコペコー!」
僕や母さんの前ではこうして無邪気な笑顔を見せる咲愛だけど、学校では真逆な性格。いつか友達が出来るといいな。
僕達二人は家に入り、一旦制服から私服に着替えてからリビングに戻るとまた僕の元へ駆け寄る。
「何作るの?」
「何か食べたいものがあるなら作るよ」
「じゃあオムライス!お兄ちゃんが作るオムライスだーい好き!」
「了解、オムライスね。ご飯とタマゴあったっけ……」
一応念の為に言うと、手間が要らないものなら作れる程度の腕前なので母さんや流歌先輩のように何でも出来る訳じゃない。
僕は咲愛と役割分担して仲良く一緒にオムライスを作り、少々不格好なオムライスが出来上がる。
「出来たー!えへへ」
「冷めない内に食べちゃお」
使い終わった道具は全て流し台に置き、一旦水を張ってからテーブルの方へ移動する。どうやら咲愛は早く食べたいらしい。
「じゃあいただきます」
「いただきまーす!あむっ……んーっ!」
美味しそうに食べる咲愛の姿は贔屓目なしにやっぱり可愛いなと、兄ながら思ってしまう。
どれ、僕も一口っと……。うん、我ながら良くできたと思う。流石に母さんには及ばないけど、それでも美味しいと思えるようなものが出来た。
「おいひいぃ……」
「ゆっくりお食べ」
咲愛は幸せそうな笑みを見せつつ、僕がまだ半分のところでもう平らげた。相当お腹減ってたんだ。
食べ終わった咲愛の口元はケチャップで汚れてて、僕は無意識に口元の汚れを拭き取った。
「ありがと、お兄ちゃん」
「もうちょっとで食べ終わるから、待ってて」
もう中学生な妹だけどちょっと小学生の感じが残るあどけなさは健在な咲愛であった。
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