第21話 動き始める恋心 #流歌視点

 航君にファーストキスを捧げたあの後、私は無我夢中で自分の部屋にやってきた。走ってきたせいなのか、それとも彼とのキスのせいなのか、まだ鼓動が早く顔も火傷する程熱く火照っていた。

 鼓動が落ち着けば落ち着く程、邪念を振り切れば振り切る程、彼の事ばかり考えてしまう。


「……何なのよ全く」


 どうして航君の事になると人が変わるのか、未だに理解出来ずにいた。好きなんかじゃないのに……どうしてキスなんか……。


「……大体渚のせいなんだから」


 当時傷心中だった私に話し掛けてきたのが航君。最初は本当に偶然に出逢い、彼も彼で少し悩んでいてお互いの悩みを解決する内に一学期も終わりを告げた。

 普段と変わらない夏休みの日々。時折渚やクラスメイトと何処かへ行くことはあれど、航君とは軽い疎遠状態。

 少し寂しい気持ちもあったけど、二学期が始まるとそんな気持ちなんて吹き飛んでいた。


「相談なんかするんじゃなかった……」


 二学期に入ると学祭が控え、クラスメイトも私も躍起になって楽しんでいた。

 そんな時に去年片想いしていた先輩が楽しそうに彼女さんとデートしているのを見て、古傷が疼いて渚に相談してしまった。


「別に……好きなんかじゃ……」


 その時に渚は『じゃあ例の後輩君とそういう関係になればいいじゃない?』と言われて、かなり時間は掛かったが今に至る。

 最初はそんなつもりはなかった。さっさと忘れる為に利用していただけなのに、航君と一緒に過ごす時間が思いの外楽しくて、気付けば彼に夢中になっていた。

 頭も良くて、気遣いが出来るそんな彼に、私は彼の良心を利用してまで偽りのカップルを演じることにした。


「ああもう……っ、あのときの自分を殴りたい……」


 そしてその日から彼の事ばかり考えるようになり、モノクロだった私の背景がうっすらと色付き始め、毎日が楽しくて仕方なかった。

 でも今は激しく後悔している。そんな彼を利用した事に。

 今は彼に寄り付く人達が気に食わなくて、その中でも川越さんは特に嫌。絶対に負けたくない。


「明日からどんな顔して逢えば……」


 彼を独り占めに出来る環境にいる彼女が一番羨ましくて、お昼休みと放課後はいつも彼の傍にいて、見せつけるかのように仲良くなってて……。

 だから今日、あんなことをしてしまった。


「航君……」


 私は制服のままベッドに飛び込み、ポケットからスマホを取り出し、彼とのツーショットを見つめる。

 半ば無理矢理撮っちゃったけど、唯一の彼との繋がり。それを待受画面にしている。


「……好き」


 画面の向こうの彼は何も言ってくれない。でも今はそれでいい。そのままで……。

 だけどもう、後悔はしたくない……。口にした事で本当の気持ちに気付けたから。


「大好き……」


 クリスマス、航君に包み隠さず告白しよう。それで駄目だったら私はもう渚みたいに恋をするのは諦めよう。

 だからその為にも絶対に振り向いて貰うんだからっ!


「……川越さんなんかに、負けるもんか」


 そして、私の次の恋が動き始めた瞬間だった。

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