第20話

 やっぱり川越さんを誘ったのが原因なのだろうか?涙ぐんだ僕を見て少しだけ寂しそうな表情を浮かべていて、先輩は気付いてないだろうけど僕の制服をぎゅっと掴んでいた。

 手が震えていて、僕はその時やっと先輩が怒った原因が分かった。


「僕が川越さんを誘ったから、ですよね?」


「……うん。二人きりの約束だったのに」


「それはすみませんでした……。でも!誘ったのにはちゃんとした理由わけが――」


「妹さんの為、でしょ?」


 ……えっ?なんで先輩は分かったの?


「でも嫌、かな……。仮とはいえ航君の彼女、なんだし……他の女の子と一緒は妬いちゃうな」


「先輩……」


「だ、だからその……えと……」


 顔を赤く染め上げた先輩を見て、僕はなんて馬鹿なことをしたんだろうと激しく後悔をするのと同時に、嬉しいあまりに流歌先輩を抱き締めた。

 最初は驚いていた先輩も徐々に受け入れ始め、僕達は抱き合っていた。


「……航、君」


「はい、先輩」


「わ、私ね――!」


「二人とも、そこで何抱き合ってるの?」


 声がする方へ視線を送ると僕達を見てにやけ顔を隠そうとしている東雲先輩の姿がそこに合った。

 勿論僕ではなく流歌先輩は三度大きく取り乱す。


「な、渚……っ?!」


「ふ、ふふっ……私が何?」


「こんな状況で言える訳無いでしょうが!!」


 流歌先輩は僕の胸元へ顔を埋めてしまい、不覚にも僕はそんな先輩を可愛いと思ってしまった。

 それ以上に流歌先輩が僕に何を伝えようとしていたのかが気になって仕方なかった。


「あ、あの先輩……?」


「うぅ~~……っ!」


 先輩はもう耳まで真っ赤に染まっていて、僕は苦笑を浮かべるしかなかった。それにしてもいつまでこうしてるつもりなのだろうか?僕としては役得だからいいけれど。


「面白いものを見せて貰ったし、邪魔者は退散するわ。流歌、いつまでそうしてるつもりよ」


「……渚がどっか行くまで」


「そう、それじゃあ村越君。また何処かで」


 僕達をこのままにして東雲先輩はその場を去っていった。

 それにしても噂通り綺麗だなぁ……。東雲先輩って、彼氏さんとかいらっしゃるんだろうな。

 とか考えていたら、再び不満げな先輩が僕を睨んでいた。


「……浮気者」


「誤解ですって……!」


「どうだか……鼻の下伸びてたし……。航君も渚みたいな綺麗な人が好きなの?」


「も?ってなんですか。僕にはが居るんです」


 目の前の貴女ですとは口が裂けても言えない。もし言ったら恥ずかしくて今の先輩のように色々とおかしくなってしまうだろう。

 だが先輩は鳩が豆を食らったかのような顔をしており、僕はさっき言った自分の発言を思い出した。


「あの先輩っ、今のは聞かなかったことに――」


「そんなこと……出来る訳無いでしょ……。誰なの?私も知ってる人……?も、もしかしてあの女?!」


「お、落ち着いてください!」


「一体誰なの?教えて……じゃないと私……っ」


 そんなこと言える訳がない。僕が好きなのは貴女なんですなんて……。

 僕が悩んでいる間に先輩は覇気がなくなっていき、先輩の目には光る一筋の光が見えて、僕の唇を半ば無理矢理くっつけた。


 何が……起こった?


「……っ。バカ」


 そう言い残して流歌先輩もその場を去っていき、僕は大輝達が来るまでずっとその場でボーッと突っ立っていた。

 先輩の唇の感触を憶えた自分の唇を触れながら。

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