第19話
終業式が近付く中、僕の周りもクリスマスに向けて色付き始めていく。大輝達もまたその一人で、上田さんと何やら話し合っていて僕は不思議と嬉しくなった。
なにせ二人とも物凄い笑顔で話し合ってるから。
「村越君、何見てるの?」
「あ、川越さん。大輝達を見ててさ、今回は僕の出番は無さそうかなって」
「そういえば入学したばかりの頃って、二人ともよく喧嘩してたっけ。でも夏休みが終わると二人とも人が変わったかのようにあんな感じだったね」
そこはまあ、僕のお陰でもあるんだけどね……。二人の仲を取り持ってなんとか現在のような仲にはなったけど。
上田さんに相談に乗ってあげたせいで一時期は目の敵にされたっけ。
「色々あったんだ。僕の知らないところで」
「上田さんが羨ましいな。だって好きな人と気持ちが繋がってて、いつでも傍に居てくれてるんだから」
「そうだね。僕も本当にそう思う」
「だから、えっと……村越君。良ければだけど……冬休みに何処か行かない?」
川越さんと僕とで……?
「もしかして、二人だけで……?」
川越さんは恥ずかしいのか、顔を赤く染め上げて目を伏せながら小さく頷いた。別の意味でドキッとした。
川越さんと所謂デートのお誘いが、でも脳裏に過ったのは何故か先輩の寂しそうな姿。
「……折角のお誘いのところ悪いんだけど、僕もう先客が――」
「滝川先輩、でしょ」
な、なんで川越さんが知ってるんだ……?!この事は大輝達しか知らない筈なのに……!
「……やっぱり」
「やっぱりって……?」
「村越君が滝川先輩の事が好きだってこと」
……えっ?なんで知って――まさか。
「村越君が滝川先輩と一緒に居るの……私は嫌かな」
「川越、さん?」
「っとと、今のは忘れて。村越君の気持ちが第一だから」
川越さんは苦笑を浮かべて僕から離れていった。
僕は去り際のあの悲しそうな表情が忘れられなくて、胸がきゅっと締め付けられた。
☆★☆★☆
その日の放課後。流歌先輩と逢う前に川越さんの元へ一度立ち寄った。
先輩ごめんなさい、今日は遅れそうかもです。
「川越さんっ!」
「あれ、村越君?どうしたの?」
「少しだけ時間、いいかな?」
「う、うん……」
川越さんから緊張感が伝わり、僕も少し緊張し始めた。
今、教室に残っているのは僕と川越さんの二人だけ。
「……それで話って?」
「川越さんさえ良ければ、だけど。クリスマスに僕の家に来ない?」
「い、いいのっ?」
「う、うん……一人でも多い方がいいかなって」
ごめんなさい先輩……これも咲愛の為なんです。
「行くっ、絶対行くから!」
川越さんの顔は爽やかな笑みが溢れて、僕は少しだけドキッとした。僕も不思議と笑みが溢れた。
やはり彼女の笑った顔は他のクラスメイトが言うように、可憐で美しく華がある。
流歌先輩とはまた違った女性として僕には写った。
「じ、じゃあまた明日っ!」
「うん。また明日」
川越さんが喜びを抑え切れぬまま飛び出していって、僕がクスクスと笑っていたら、ガラッと空気が変わるように鋭い視線を感じ取った。
その視線こそが――
「むうっ」
――僕の片想い中の人、滝川流歌先輩だった。
「せ、先輩……?!いつからそこに……!?」
「……ふんっ」
流歌先輩はかなり怒っていて、一切顔も合わせてくれない最悪な状況。栗鼠のように頬を膨らませて何かを呟いていた。
ただ今の僕はかなり焦っており、どうすれば機嫌が治るのだろうかと慌てふためく。
どうしよ……先輩に嫌われちゃった……?折角二人きりって約束だったのに……。
「……って、なんで泣いてるの?」
「な、泣いてません……。目にゴミが入っただけです……」
嘘です。先輩に嫌われたかと思うと涙が止まらなくなったんです。
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