第18話

 あれから一週間程が経過。僕は仮恋人同士の関係で流歌先輩と過ごす時間が増えていった。

 勿論、川越さんとの勉強会も挟みつつ。

 先輩は僕が川越さんと一緒に居るのが嫌らしく、朝は寂しそうな表情を浮かべて昼休みと放課後になるといつも不機嫌で僕を抱き寄せる。丁度今がその時なのだ。


「あの先輩」


「なにかな?航君」


「ここ寒くないですか?」


 今僕が流歌先輩と過ごしている場所は学校の屋上で、まだ十二月の中旬とはいえ流石に寒い。

 先輩は大丈夫なのだろうか?下はスカートだけだし、靴下も言うほど長くないから。


「寒いよ?だからこうしてくっついてるんでしょ?」


 最近は逢うとすぐよく僕に抱きついてくる。一時期の咲愛と重なって度々変な雰囲気になったりもするぐらいだ。

 それに……本当の恋人っぽい事もしたりしちゃってる。


「そろそろ帰ろっか」


「は、はい……っ」


「ふふっ。ねえ航君」


「どうかしましたか?」


 僕の事を呼んだは良いけど、どうして見つめられているのだろう?凄く恥ずかしい。かといって目を逸らせられない。

 それは先輩も一緒で徐々に顔が赤く染まっていく。


「もうすぐクリスマス、だよね。航君もパーティーとかしたりするのかなって……」


「毎年家族と一緒にしてますよ。妹が凄く楽しみにしてるので」


「へぇ……そう、なんだ……」


 先輩は急にどうしたんだろうか?更に顔が赤く染まっていったような……?

 もしかして先輩も楽しみにしてたとか……?いやいや、いくらなんでも先輩がそんなこと考える筈無いか。


「ね、ねえ航君……」


「はい、何でしょうか?」


「……っ!わ、私も……行って良いかな……?」


 せ、先輩が……ぼ、僕の家に……。こんなに嬉しい事ってあるのだろうか?元々誘おうとしていたってのもあるけど先輩と一緒に過ごせるだなんて夢のようだ。


「ぜ、全然良いですよ……?元々先輩をお誘いするつもりでしたので……」


 僕がそう告げると先輩の顔は過去一番ってぐらい真っ赤に染まり、見られたくないようで僕の胸元へ顔を隠した。

 勿論僕も顔が真っ赤ではあるが、これでも一時期よりは改善したつもり。


「……もうっ、生意気なんだからっ」


「す、すみません……。でも妹が逢いたがっていたので……なるべく叶えてやりたいなと……」


「ふふっ、妹さんっていくつなの?」


「中一ですけど……それが何か?」


「中学生……ふむふむ」


 一体何が分かったのだろうか?僕には皆目検討も付かない。

 でも楽しい一日になるのは間違いないだろう。


「妹さんにもプレゼント用意しなきゃだよね……あ、勿論ちゃんと航君のも用意はするから」


「ありがとうございます。妹も喜ぶと思います」


 良かったね、咲愛。流歌先輩がクリスマスプレゼントを用意してくださるってさ。

 早くクリスマスにならないかな……なんだかとっても待ち遠しい。


「それで……さ。パーティーが終わったら、少しだけ時間くれないかな?」


「いいですけど……理由をお聞きしても?」


「そ、その時に教えるから……っ!」


「は、はぁ……」


 ……よくよく考えたら、これって先輩と二人きり?

 いや今も二人きりだけど……!うあぁ……なんだか怖くなってきた……。


「……な、何よ」


「い、いえ……っ、先輩とご一緒出来るのが夢みたいで……少し嬉しくて」


「……っ!」


 あ、あれ……?なんで先輩は僕から離れて後ろに向いてしまったのだろうか?


「あぁもうっ!本当生意気なんだから……っ!」


「す、すみません……!」


「……でも、ふふっ。そっか……嬉しい、か……へへっ」


 よく分かんないけど先輩が上機嫌であることは間違いなくて、クリスマスが本当に待ち遠しく思う僕であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る