第17話 気持ち #流歌視点

 航君に別れを告げて電車に乗り込んだ後、今まで以上に顔が火照ってっていた。

 それもそうだ。去り際に彼の頬にキスなんて……本当のカップルがやること。

 私達は偽りのカップル、利用しているだけ……なのに。


「……っ」


 今の私の頭の中は彼の事ばかり。笑った顔、怒った顔、驚いた顔と次々といろんな表情が出てくる。

 その度に胸が鷲掴みされたかのように苦しかった。


「何なのよ……全く」


 なんでドキドキしてるんだろうか?年下の男の子でお世辞にも格好良いとは言い難い彼をここまで考えるなんて……。

 昨日からなにかおかしい。やっぱりあの川越さんと出逢ったことがきっかけなのだろうか?

 ……分からない。考えれば考える程、出てくるのは彼に対する気持ちと独り占めにしたい独占欲だけ。


「何を一人でそこまで悩んでるの?」


「凪沙……」


「また例の彼のこと?」


 凪沙には全て見透かされて何も言い返せなかった。


「図星ね。一応言っておくけど、私は何があろうと貴女の味方だから。私は恋とかそういうのは分からないけど今の流歌に何かがあったか聞かせて頂戴」


「……昨日、私に訪ねてきた子が航君の事が好きだって……放課後見に行ったら楽しそうにしてて……気付いたらあの子を盗られたくないって」


「……そう。それであんなことしたのね」


「っ?!凪沙見てたの!?」


 よりにもよってあの場面を見られただなんて……一番最悪な展開なんだけどぉ……。

 うぅ……っ、恥ずかしい……。


「流歌は例の彼の事。どう思ってるの?」


「どうって……別に一人の後輩としか……」


 第一後輩の航君と正式に付き合うだなんて、無理な話。


「そうやっていつまで逃げるつもり?」


「逃げてなんか……!」


「流歌はあの子を盗られたくないと言っておきながらそんなことないって……矛盾してるわ。本当は彼の事、好きなんでしょ?だから偽装カップルで彼を独り占めにしようとしたんじゃないの?」


「……そんなこと、ない」


 確かに彼の事は好きだけど、凪沙の言う好きと私が思ってる好きは違う。ラブかライクかの違い。


「じゃあどうしてその川越さん……?だったかしら。本当にその子に盗られても良いって言うの?」


「だから私は別に航君のこと……!」


「そう。じゃああの子達が付き合って、互いに仲を深め合って、に行っちゃっても良いのね」


「……っ」


 甦ってくるのは私が片想いしていた先輩の事。私が告白する前に別の子と付き合ってしまい、そのまま私の初恋が終わった。

 まさか掘り返されるだなんて思っても見なかった。


「手遅れになる前にやるべき事があるでしょ。流歌に宣戦布告した川越さんのように」


「で、でも……」


「もうしたくないんでしょ?」


「……うん」


 気持ちを伝えきれずに後悔ばかりの人生はもう嫌だ。航君の特等席は私がものにしないと……ぽっと出の川越さんなんかに負けたくない。


「流歌なら大丈夫。私が保証する」


「ありがと凪沙」


「また困ったことがあるならいつでも相談に乗るから」



 凪沙はちょっと意地悪な一面もあるけど、ここぞって時には頼れる大切な私の友達。いつかこの恩をしっかりと返したいな。

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