第16話
悩んでいる間に母さんは晩御飯の準備を進めていて、咲愛は二度寝に入ってしまった。何も出来ない僕はいつもボーッとしてるだけ。
一番辛い筈の母さんは父さんが亡くなってから、人が変わったかのように女手一つで僕達を育ててくれた。
だから僕は尊敬もしてるし、そういう人になりたいと思ったことが何度かあったけど……結局何も出来ず仕舞。
「……ふぅ」
そんな自分の事が嫌になる。でも高校生になってからマイナスばかりじゃなくなってきた。
こんな僕でもやれることはあるということ。
「咲愛、兄ちゃんと一緒に顔洗いに行こ」
「はぁい……」
咲愛は寝惚けながらも僕と一緒に洗面所に向かう。
なんだかんだ言っても咲愛ってもう中学生なんだなと、思い知ったのはふらついた足取りで僕に抱きついた時。
今までは僕と同じように、僕が居ないとダメだった咲愛も今や一人で出来るようになっていた。
「タオルどこぉ?」
「はい、これ」
冷たい水で顔を洗って目が覚めた咲愛。
咲愛がタオルで顔を拭いている時に、母さんの声が聞こえてきた。
「ご飯出来たから、早くいらっしゃい」
「はーい」
咲愛は僕の手を引いて母さんの元へ駆け寄る。
あんなに僕の後ろをずっと着いてきた筈の咲愛が、今やその面影が少しずつ消えていく寂しさを憶えた。
「ごっはん♪ごっはんー♪」
でも変わらないところもあって、咲愛も成長してるんだなって思うようにした。
☆★☆★☆
晩御飯を食べ終えて入浴も済ませた夜二十一時頃。
風呂上がりの咲愛の髪の毛を拭いてあげてる時、母さんは僕に話し掛けてきた。
「なんか良いことでもあったの?」
「え?どうしたの急に」
「いつもと雰囲気が違うから」
そんなに変わった……?いつも通りだと思うんだけど。
「航って今日はちょっと明るいから、良いことでもあったのかなって」
「……まあ、あったといえばあった」
先輩が僕に少しだけヤキモチを妬いていたこと、手作りのお弁当を振る舞ってくれたこと、同級生に勉強を教えたこと。
他にも言えないことがあるけど、流石に咲愛の前で打ち明けるのは僕のメンタルが持たない。
「そろそろお友達でも出来た?」
「それぐらいはとっくに出来てるよ……!」
「あら?そうなの。咲愛はどうかな?」
あんなに明るかった咲愛の顔が強張って、小さく頭を横に振った。咲愛はまだ出来てないようだ。
咲愛は極度の人見知りで更に引っ込み思案でもあって、小学時代同様になかなか馴染めずに居るみたい。
「咲愛、その内に出来るよ。焦らずゆっくり、ね?」
「お兄ちゃん……」
「そうよ。咲愛のペースで」
僕と似たような性格をしているから、咲愛の苦しみは多少は分かる。力になれる事ならなんだってしてやりたい。
身内として、兄として、良き理解者として。
「咲愛がんばるね」
「よしよし。明日も学校だからもう寝よっか」
「はーい、お母さんおやすみなさい」
「おやすみ」
咲愛は元気よく自分の部屋に向かった。笑顔でいったということは余程嬉しかったのだろう。
そして僕はというと母さんがニヤついているのを見て、少々不満げな顔を見せた。
「さっきの話の続き、聞かせてよ」
「なんでさ」
「親として気になるの、咲愛同様に上手くやってるか。航は小中共に咲愛に付きっきりだったでしょ?」
付きっきりという言い方は些か語弊があるけど、言われてみればそうだった気がしないでもない。
やっぱり母さんも僕の事、心配してたんだな。
「そろそろ彼女でも出来たかなって。ほら、お父さんと出逢ったのも丁度その頃だし」
前言撤回、心配なんてしてなかった。父さんが生きてた頃に散々聞かされた話だ。
今も忘れられない為に隙あらば父さん。
僕としては大好きだった父さんの思い出話が出来て嬉しいけど、咲愛の事を考えるとなるべく控えていた。
「……今頃生きてたら、どうなってたのかな」
「そうね……航に幼馴染が出来たかも?」
今じゃ考えられないけど、可能性としてはあり得そうだ。
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