第14話
昼休みに教室に戻ってから特に何事もなく、気付けばもう放課後。今日も無事に全ての授業を終えた。
自分の席で教科書類を片付けている時、僕の席の近づく一人の女子生徒が居た。
「村越君。今時間良いかな?」
目の前に現れたのは上田さんではなくて、クラスメイトなのかすら危うい感じの人。単純に名前と顔が一致してないだけなんだけど。
「僕に何か?」
「っとと、その前に自己紹介するね。私は川越悠希、同じクラスなんだけど……憶えてる?」
「一応は……ごめん、人の名前憶えるのが苦手で……」
「気にしないで、私の方こそいきなりでごめんなさい」
深々と頭を下げた川越さん、ゆっくりと顔を上げて僕の顔をじっと見つめてくる。
川越さんはショートヘアの上田さんやセミロングの流歌先輩とは違い、ひとつに纏め上げていてポニーテールというものだった。ちなみに咲愛は上田さんと先輩の中間点のボブ。
川越さんはクラスの中では胸が大きいと聞いたことがあった。
「何処見てるのかな?」
「ご、ごめん……!嫌だったよね」
「ううん、全然。もう慣れたから」
川越さんはクスクスと笑った後、僕に再び話し掛けてきた。
先輩とは違うタイプで少々ドキドキしている。
「もし良かったら勉強教えて欲しいなって……村越君、頭良いって聞いたから」
「僕なんかで良ければ……」
「本当?!ありがとう」
川越さんは笑顔がとても似合っていて、妹である咲愛と度々重なって見えてしまう。だから不思議と落ち着き始めた。
川越さんの手元には数学の教科書があり、それは僕が最も得意としている教科のひとつであった。
「何か分からないところでもあった?」
「うん。えっとここなんだけど――」
それから一時間近くあまり詰め込みすぎないように分かりやすく解説をしていくと、川越さんの要領が良いのか飲み込みが早くて一人でもある程度は解けるようになっていた。
元々は頭の良い人なのは川越さんの前回の成績から見ても分かり切っていたことだが、それでも意外だった。
「今日はありがとう。分かんなかったとこがある程度分かるようになったよ。教え方が上手いのかな?」
「そんな事無いとは思うけど……」
「もし良ければ……またお願いしても良いかな?」
「僕なんかで良ければ、いつでも」
「ありがとう。ふふっ、また明日ね?」
川越さんは自分の席に戻り、帰り支度を済ませてそのまま教室を出た。入れ違うように流歌先輩が……って!
「え!?先輩?!な、なんでここに……」
「随分と楽しそうにしてたね?」
「勉強を教えていただけです!!」
「ふーん……」
あれ……?いつもだったら褒めてくれるのに、今回は余計に不機嫌になったような……?
それに先輩の手が僕の制服を掴んでいて、膨れっ面で僕を睨んでいた。まるで駄々をこねすぎて拗ねた咲愛のように。
だからなのかもしれない。僕の手が先輩の頭に吸い付くように置いてしまったのは。
「……っ!」
「え、あっ!いやえっと……その、癖と言いますか……よく妹が今みたいに拗ねることがありまして……」
「べ、別に……航君を取られたからって……す、拗ねてなんか無いから……!」
「先輩?」
それほぼ答えを言ってるようなものですよとは口が裂けても言えない。なにせ先輩の顔が林檎のように赤く染まっているから。
でも掴んでいる手だけは離さないと言わんばかりに力を込めていた。
「僕は何処にも行きませんよ」
「~~っ!だ、だから違うって……ば……」
今度は泣きそうな表情を浮かべて、僕の胸に流歌先輩が飛び込む。後ろへ倒れないようになんとか踏ん張った。
今日はいつも以上に情緒不安定なのか、凄く甘えてくる。
「すみませんでした」
「……鼻の下伸ばしてた」
「いつから見てらしたんですか?」
「あの子の胸をガン見してた時」
ほぼ最初からで一番最悪な場面じゃん……!
何も言わない僕に不信感を抱いたのか、先輩は更に腕に力を込めてくる。
「あ、あれは不可抗力ですって……!」
「どうだか……私だって見えないだけでちゃんとあるんだからね?」
「ちょっと先輩……?!」
流歌先輩は僕の手を取り、自らの胸に手を置いた。
確かに大きいけど……!今の僕には刺激が強すぎる……!
「今の先輩……なんか変です!」
僕が知らないところで一体何があったんだ?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます