第12話

 流歌先輩お手製のお弁当を平らげた僕は凄く美味しくて胸の奥が物凄く温かく感じた。

 また食べたいという自分と迷惑かなと思う僕が居て少々悩んだ様子で先輩を見る。


「流石男の子。全部食べ切っちゃった」


「自分でもビックリするぐらい美味しかったです」


「ふふっ、そう言って貰えて嬉しいな」


 先輩もどこか嬉しそうに呟き、じっと僕を見つめ始めた。

 ドクンドクンと鼓動が強くなる一方、僕は先輩から目を逸らせずに僕も先輩を見つめる。


「あの……先輩?」


 流歌先輩は何も言わず、僕の髪を優しく撫でて先輩の手が僕の右頬に止まる。やっぱり先輩は凄く綺麗な方だ。

 胸に秘めた想いを隠したまま先輩の言葉を待つ。


「……ふふっ、顔真っ赤だよ?」


「先輩だって顔赤いですよ?」


「そ、そんなことないもんっ」


「いひゃいですせんぴゃい」


 事実言っただけなのに流歌先輩に頬をつねられて怒られてしまった。先輩は不貞腐れて拗ねた顔で僕を睨む。

 ただ正直怖いと言うよりも可愛いと言う方が正しいかもしれない。


「まったくもう……先輩をからかわないの!」


「すいません……」


 つねられた頬を擦りながら先輩に謝罪すると、少しだけ機嫌が良くなったように思えた。単純だなぁと思いつつ、先輩と他愛の無い世間話を時間一杯までした。

 もうすぐ昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く時間が迫ってきて、この楽しい時間も終わり。


「そろそろ戻ろっか。授業遅れちゃうよ?」


「そうですね、今日はありがとうございました。お弁当御馳走様でした」


「いいよ、気にしないで。私が好きでやってることだから」


 本当に先輩は優しい。ますます内に秘めた想いが溢れ出しそうになる。でもまだ告白するのは時期尚早。

 今したところで苦しい想いをするのは僕だけ、なんとか先輩に振り向いて貰いたい……。


「――君。航君」


「は、はい?何でしょうか?」


「ほら、帰るよ?」


 先輩は立ち上がって僕に手を差し伸ばしていた。この光景を見た僕は初めて出会った時の事を思い出す。

 あの頃の先輩は負のオーラを纏っていたけれど、今はその面影がない。僕は流歌先輩の手を取り、立ち上がる。


「はい、帰りましょう」


 いつか僕の気持ちが先輩に伝わる時が来るのかな……?だといいな……。







 ☆★☆★☆









 階段で先輩と別れて教室に着いた後、気味の悪い視線を送る大樹に見られながら自分の席に着く。

 僕達の席より距離はあるが、上田さんも僕の帰りを待っていたようだ。


「んで、どうだった?」


「まあ楽しかったよ」


「それだけなの……?」


「はっきり言っておくけど僕と先輩は君らとは違うからね?第一まだ先輩と後輩の仲だし……」


 事実なだけに自分で言ってて悲しくなってきた。


「ちぇー、収穫なしかぁ」


「まあこれから頑張らないとね?何かあれば言ってくれれば協力するから」


「ありがとう。その時はお願いします」


 なんだかんだ言っても二人は僕の恋路を応援してくれる大事な友達。二人からしたら僕に恩もあるかもしれないけど、僕にとっては二人のお陰で今があると思っている。

 その後僕達は次の授業の準備に取り掛かる中、何処からか視線を感じた。先輩は今教室に居る筈だから一体誰だろう?


「航どうした?もうすぐ始まるぞ」


「う、うん。気のせい、かな……」


 その視線の正体は最後まで分からず、半分程授業を聞き流して受けていた。

 早く授業終わんないかな?流歌先輩に逢いたい……。もっともっと流歌先輩の事を知りたいから。

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