第11話
流歌先輩と二人きりになった僕は空き教室で、先輩が作ってきたお手製の手作り弁当を貰うことになった。
けれど先輩は一向に此方を向いてくれず、僕も僕でまさかの出来事だった為に何も出来ずに居た。
「……た、食べないの?」
「い……頂きます……」
貰ったは良いけど……先輩が作ってくれた手作りというのもあってなかなか食べづらい。
食べるのが勿体無いと思ってしまったから。
「先輩も、食べないんですか?」
「……食べる」
流歌先輩はそのまま弁当箱を開けて、脇目も振らずに一人黙々と食べ始めた。先輩の食べてる姿を見るのは何気に初めて。
じっと見つめていたのがバレたのか、流歌先輩と目があった。
「~~~……っ」
また逸らされてしまい、なんだか寂しい気持ちを抱いた。
流歌先輩は……お弁当は食生活の事に関してで、僕自身には興味無いんだろうなと。そう思うと大きな溜め息を吐いた。
やっぱり成り行きでこうなっただけなんだと自分に言い聞かせた。
「航君?どうしたの?溜め息なんか吐いて」
「あ、すいません……色々と考え込んでしまって……」
「クラスで何かあったの?」
「何もありませんよ……!ただ……」
先輩に僕の気持ちを打ち明けるのが怖くて、なかなか言い出せずに居ると不意に身体が引き寄せられた。
一瞬何が起きたのか分からず、ただ何度も何度も瞬きをするだけ。
「いつも聞いて貰ってばっかりだから、今日は私が聞いてあげる番」
「……ぁ」
「だから航君も、遠慮せずにどんどん言っちゃって良いからね。いつも通りで良いんだよ?」
流歌先輩は僕に優しく微笑み、まっすぐ僕を見つめてる。
逸らしたくても逸らせない為に視線が右往左往に泳いでしまう。先輩のそういうところに惹かれたんですよ僕は……。
「……ズルいですよ、先輩は」
「え?」
「僕の気も、知らないで……本当ズルい人」
赤くなった顔を隠す為に先輩の胸元へ飛び込み、力一杯抱き締める。全部先輩が悪いんですからね……?
「ちょっと航君……?!こ、こんなとこ、他の誰かに見られたら……!」
「別に良いじゃないですか?擬似とはいえカップルなんですから」
「そ、それは……そうかもしれないけど……!」
今はこうしている方が僕としてはかなり有り難かった。
離したくない、離れたくない気持ちがどんどん強くなっていき、気付けば隠していた筈の顔を先輩を見る為に晒していた。
「僕達……周りからどう見られるんでしょうか?」
「つ、付き合ってる関係に見えるんじゃないかな……?というか、そうじゃないとダメって言うか……」
「……そう、ですか」
僕は少々名残惜しむようにゆっくりと先輩から離れていくと、先輩から貰った手作り弁当を頂くことにした。
久しぶりのお弁当、いつ振りだろうか?父さんが亡くなってからは母さんはあまり作らなくなってしまったから。
「……どう?お口に合わなかったかな?」
「美味しいですよ。手作りなんて久し振りなので思い出に浸ってました」
「ほ、本当……?!良かったぁ……」
流歌先輩は僕なんかの為にお弁当を作ってくださった。
先輩はお礼だとは言っているけれど、僕からしたらそんなことはないと思ってる。
いつも先輩には助けて貰ってばかりだなと思う僕であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます