第9話 私の知らない彼 後編 #流歌視点

 凪沙にからかわれていたらクラスメイトまでやってきて気付けば村越君の元に人集りが出来ていた。

 少しばかり寂しい。村越君は私の後輩なんだけどな……。


「皆止めて!村越君はその……か、彼氏なんだから!」


「えー、別に良いじゃんかー」


「そうよそうよ。もう少しぐらい交流させてよー」


「駄目ったら駄目!行こっ、村越君!!」


 本当私が付いてないと収拾付かないじゃない!頭は良いけどこういうのには不馴れなのかな?

 とにかく今はこの場を離れた。


「……村越君も嫌なら嫌ってはっきりと言って」


「す、すみません……」


「全く……鼻の下伸ばしすぎ」


 全く私が居たから良かったものの居なかったら完全に皆にやりたい放題言われたい放題よ?

 しかも皆私よりスタイル良いから明らかに視線が胸にいってるもん。むうっ、私だってちゃんとあるもん……。


「バレないようにちゃんと付き合ってる風に見せないと駄目なんだからね?」


「は、はい……っ」


 村越君って返事だけは良いんだよね。まあ嘘を吐くような性格じゃなさそうだし、良いけど。

 そんなこんなで学校に着いたけど、そこでも相変わらずからかわれて逃げるように校内の空き教室へ向かった。


「はぁ……本当にもうっ」


「すみません……上手く立ち回れず……」


「まあ初日だから多めには見るけど、明日からはちゃんとしてね?一応信頼してるからこうして頼んだ訳だし」


 じゃなかったら今頃別の人に頼んでたもん。

 ちゃんとこの擬似カップルを演じないと、皆勘が良いからすぐに見抜かれちゃうな。


「じゃあ次はお昼休みに、今日も学食?」


「はい。先輩は?」


「じゃあその、終わったらで良いからここに来て」


「は、はぁ……分かりました。ここに、ですね」


 でも彼と一緒に居ること自体は嫌ではない。寧ろ心地好く感じているぐらいで、村越君の知らない一面を知れると思えば心は弾む。


「……先輩」


「へっ……?な、何?」


 ど、どうしちゃったの……?もしかして厳しすぎて嫌われちゃった……?

 でも彼は私の考えとは全然違った。


「もう少しだけ、居ても良いですか?」


「っ……う、うん」


 な、何……?この胸騒ぎ……胸が苦しい……。

 もう少しだけ一緒に居たい、ってことかな?


「今日の先輩……一段と輝いて見えます。あ、普段からそう見てると言うか……」


「そ、そう……ありがと」


 ほ、褒められたの……?なんかよく分かんないけど……めっちゃ恥ずかしい……。顔絶対真っ赤だよ……。


「……ねえ、私達もさ。他の人達のように下の名前で呼び合わない?その方がそう見えるかな、って……」


「分かりました。では……る、流歌先輩」


「っ!な、何かな?わ、航……君」


 ただ名前で呼び合うだけなのにこんなにドキドキするものなの……?!今の私絶対おかしい……!

 でも嫌な気持ちを抱いた訳じゃなく、むしろ好意的。


 チャイムが鳴るまでずっと一緒で、胸の奥がきゅーっと締め付けてくる代わりに、二人だけの時間がとても長く感じていた。

 村越君は私の事、一体どう思ってるんだろうか?

 もし好意を寄せているのであれば、申し訳ないけど叶うことはないと思う。今はそういうの良いかなって思っているから。

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