第8話 私の知らない彼 前編 #流歌視点

 今日は普段より早めに起きて、ひっそりと一人で駅に来ていた。別に深い意味はないけど驚かしてみようかなって。

 電車から降りてホームから改札口へ向かう道中のこと。


「あら流歌?今日は珍しく早起きね」


「げっ……凪沙……」


「ちょっと顔合わせて第一声がそれって失礼でしょ」


 なんでこういう時に限って凪沙が居るのよ……!

 中学の頃からよく一緒に居ることの多い凪沙は、私の事に関しては特に鋭くて、一年の頃に私が片想いしてた人を見破る程の洞察力を持っている。

 それに今回の件を相談してしまった事で女子クラスメイト限定ではあるが知られてしまった。


「……別にいつ来ようが私の勝手でしょ」


「それはそうだけど」


「じゃあ私先行くね……!」


 私は急いで改札口を抜けて駅前の村越君が来るであろう場所に急いで移動する。早く行かないと凪沙がやってくる……。

 無我夢中でホームから外へ繋がる通路を走り抜けた。


「……はぁ、ここまで来れば」


「何も逃げる必要はないでしょ?」


 な、なんで凪沙が付いて来てるの……?!


「面白そうだから」


「…………凪沙に相談するんじゃなかった」


「失礼しちゃうわ。提案を飲んだのは流歌でしょ?」


 その事を切り出されると何も言えない私。

 二学期に入ってから彼と一緒に居ることが多くて、付き合ってるんじゃないかという噂を抑える為に擬似カップルを演じることにした。


「さっさと告白したら良いのに。その彼の事、本当は好きなんでしょ?」


「後輩として、ね」


 というよりも私の言う好きはライクの方であって、ラヴではない。でも彼の事はとても良いと思ってはいる。

 ただ私のせいでこうなってしまったのだ。


「ん?あの子……誰か探しているようね?」


 凪沙の声がする方へ視線を移すと、辺りをキョロキョロと見渡す村越君が居た。ふふっ、なんか可愛らしい。

 ただ私よりも先に凪沙が彼に向かって歩み出した為、慌てて後を追いかける。


「誰を探してるのかな?」


「滝川先輩ですよ」


「えっ、私?」


 村越君はさも当然のように言い放ち、少しだけドキッとしたけど肝心の村越君は私より凪沙の方を見つめていた。

 何よ、私を探しておいて……。


「……村越君?」


 確かに私よりスタイルは良いけど……私だって負けてないんだから……!

 あーもうなんかイライラする!


「へっ……?せ、先輩?」


「ふーん、私より凪沙が良いんだ?」


 そりゃね?性格は私よりは良いかもしんないけどさ?だからって見向きもされないのは流石にムカつく。


「ふふっ、この子が流歌が言ってた子ね?初めまして、流歌のクラスメイトで親友の東雲凪沙しののめなぎさよ」


「ど、どうも……村越航、です……」


「話は流歌から聞いてるわ。今後とも宜しくね」


「は、はい……」


 おどおどしながらも凪沙と親好を深めようとするのは我慢出来なかった。


「村越君っ」


「せ、先輩……!?ぁ」


「村越君、凪沙に靡いちゃ駄目なんだから。凪沙も凪沙で村越君を誘惑しないでよ」


「あら、可愛い後輩を取られそうになって私にヤキモチかしら?」


「ち、ちが……っ!!」


 別に村越君とはそんな関係じゃない……!

 頭では違うって認識しているのに、何故か顔が熱く胸の奥がざわざわと騒がしく、気付けば彼の腕に顔を隠していた。


「ふふっ、ごめんなさいね。ついついからかっちゃったわ」


「もうっ……!凪沙のバカっ」


 あの顔、絶対わざとだ……!中学から一緒に居たから流石の私も気付く。

 すると村越君は不思議そうに私を見つめていた。


「な、何……?」


「い、いえっ……!」


 すぐさま顔を背けた村越君だが、耳まで顔が真っ赤だ。


「ぷっ……ふふっ」


「もうっ!笑わないでよ……!?」


「ごめんなさい……あまりにもお似合いだから、おかしく思えちゃって……!」


 お、お似合いかどうかは分かんないけど……!また……!


「か、からかうのは辞めてっていっつも言ってるでしょ……っ」


「だからって、わざわざ村越君を――」


「わああああっ?!それ以上は本気で怒るからね!?」


 なんでバラそうとするの?!いや別に知られても良いんだけど……!

 凪沙の奴……!!今度絶対にやり返すんだから……!


「村越君っ、別に何もないからっ!ね?」


「いや、でも……」


「ね?」


 いつか本当の事言うから!今だけは私の言う通りにして欲しいの!!

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