第二章 偽装カップル
第5話
駅に着いた僕達はバスを降りると、先輩はすぐさま僕の腕を絡めてきた。まるで付き合ってますよと言わんばかりに。
僕としては非常に嬉しいが、いきなりやられるのは心臓に悪いので辞めていただきたい。
「さあ、ちょっと寄り道しよっか?」
「えっ……せ、先輩っ!?」
「ほら行くよー」
先輩は心の底から笑いながら晴れやかな笑顔で、僕を引っ張っていく。いつ見てもこの笑顔だけは慣れない。
僕が先輩に恋心を抱いた原因でもあるから。
先輩に連れられて軽くウィンドウショッピングや、いろんな所を回りに回った。僕が知らない先輩の一面が知れてとても有意義な時間だったが、それも長くは続かない。
「……そろそろ帰ろっか」
「そう、ですね」
先輩と僕は名残惜しむように解散の宣言を聞き入れた。
僕はもう少しこの時間が続けば良いと思っているけど……先輩は一体どうなのだろうか?もし同じことを考えていてくれたらとても嬉しい。
「あの先輩」
「なあに?」
「友達に僕達の関係を打ち明けても宜しいですか……?」
僕はこの偽りの関係性について、ダメ元で一応聞いてみた。
「うーん……それはどうしても?」
「勿論無理でしたら黙っておきますが……」
「村越君が信じる相手なら良いけど、その人以外は駄目だからねっ?」
「は、はいっ……!」
なんてあざとい表情をするんですか……!危うくボロが出そうになりましたよ!
僕が本当の先輩の恋人になるのはまだ無理だ。もっと勉強して格好良いと思って貰えるように頑張らないと……。
「じゃあまた明日。村越君今日は無理言ってごめんね?」
「い、いえ……楽しかった、です」
「そっか、バイバーイ」
先輩は駅のプラットホームに中に消えていき、僕の左手には微かに先輩の手の感触が残っていて、少し距離が近付けたことが何よりも嬉しかった。
いつか僕が自然に先輩の手を握る瞬間が来るのだろうか?
「……来たら、良いな」
この気持ちを先輩に伝えたい。もう後悔なんてしたくないから。
☆★☆★☆
駅前から数分経った後、家に着いた僕は門の前で佇む小さなシルエットが見えた。咲愛の奴、また鍵忘れたのか。
気付かれないようになるべく忍び足で近付くと、門まであと数メートルのところで咲愛に気付かれた。
「お兄ちゃん?何してるの?」
「それはこっちの台詞。また鍵忘れたでしょ」
「うん」
あ、そこは素直なんだ……。悪びれる様子もなく、当然みたいな表情で僕を見る。
「すんすん……お兄ちゃんから女の人の匂いがする……」
「犬か咲愛は」
「でもすっごく優しそう……ねえねえ、どんな人なの?」
目を輝かせて問い詰めるその姿は中学生になっても変わらず可愛らしく、微笑ましい姿で初めて僕以外の人に興味を持った瞬間だった。
先輩の事、どう説明したら良いんだろうか?恋人役のことは咲愛のまでは聞いてないし……。
「まあ学校の先輩。同じバス通学でよく一緒に乗り合うから、仲良くして頂いてるんだ」
「へー、一回会ってみたいなぁ。その人に」
「それはどうして?」
「咲愛が会いたいから!えへへ」
一瞬咲愛がお姉ちゃんになるかもとか言い出すのかと思ったけど、全然違う答えで良かった……。咲愛は本当なに考えてるのかさっぱり分からないや。
しっかりと態度や言葉で表現するようになってからはそうでもなくなったけど、いきなり突拍子の無い事を言い出すからいつも母さんを困らせたりしている。
「いつか、ね」
「お兄ちゃん!約束だからね?」
「分かってるよ。お兄ちゃん約束破ったこと無いでしょ?」
「うんっ!指切りげんまん!嘘ついたらはりせんぼんのーます!指きった!」
咲愛の願いが現実のものになるよう、僕もしっかりと頑張らないと……。
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