第3話

 体育館裏から後者に戻る際に上田さんと偶然鉢合わせ、僕は大樹が何処かに居ないか辺りを見渡していた。

 それに気付いた上田さんはゆっくりと僕に近付く。


「大樹ならここには居ないわ。教室でふざけてるから」


 ふ、ふざけてるって……もう少し言い方ってものがあるでしょ……。まあ僕らにとっては当たり前の話だが。

 それにしても上田さんが僕に用があるってことは、また大樹絡みのことかな?


「その顔、既に察したようね」


「……誰のお陰で付き合わせたと思ってるの?」


「そ、それは言わないお約束よ……!」


 上田さんは顔を赤く染めて、叫びに近い形で声を張り上げた。それだけ大樹の事を意識してることが窺える。


「それで、今回は何をしたら良いの?」


「えーっとほら、もうすぐクリスマスじゃない?だから……どうやって誘えば良いのかなって……」


「上田さんか……」


「私って何よ?まさか大樹も……?」


 はい、そのまさかです。二人とも考えることが一緒なのが僕にとっては非常に喜ばしいことだ。

 大樹と上田さんは幼馴染みで、とは言っても思春期特有の疎遠期間で思うところがあったらしく、中学卒業の時に上田さんが告白して今に至る。


「そこは……頑張ってとしか言えないかな」


「何よそれ、大樹の奴……また変なこと言ったわね」


 何か僕のせいで大樹の身に危険が及びそうな予感が……。


「まあ良いわ。今回は私一人で頑張ってみる」


「なにかあれば協力するから」


「ええ、じゃあまた教室で」


 上田さんはそのまま僕の前から去り、僕は教室に戻った。








 ☆★☆★☆










 午後の授業も順調に終わり、放課後。

 なにやら僕達のクラスの前の廊下がすごく騒がしく、かなりの人集りが出来ていた。その原因は勿論滝川先輩だ。


「おい、航一体どういうことだ?なんで滝川先輩が俺達のクラスに?」


「あ、あとで説明するから……!」


 僕はとりあえず先輩の元へ駆け寄ると、視線の先が先輩から僕へと移り変わった。

 様々な噂や憶測が飛び交う中で、先輩は爽やかな笑みを僕に向けてくれた。高鳴る鼓動を抑える為に、顔を俯かせてしまう。


「迎えに来たから。一緒に帰ろ?」


「……はい」


 僕は自分の席に戻り、鞄を手に取って再び先輩の元へ。

 先輩はあろうことが僕の手を掴んで、その場を立ち去るように連れられた。ヤバイ……!恥ずかしい……!

 誰も居ない階段の踊り場で立ち止まる滝川先輩。今度は手の形を変えてきた――って!


「せ、先輩……っ!こ、これ……って……」


「こ、恋人らしいことしないと……バレちゃうでしょ?」


「それはそうですけど……っ!」


 ああもうっ!緊張しすぎて考えが纏まらない……!!

 僕が悶々としてる中、先輩は身体を寄せて絡み付くように腕に抱き着いていた。流石の先輩も顔が真っ赤に。


「か、帰ろっか……?!」


「は、はい……!」


 僕は煩く高鳴る鼓動と火照った顔を抑え、先輩と共にバス停までお互い無言のままバス停へ。

 バス停に着いた僕達だけど先輩が隣に居るせいか、周りの音すら聞こえない状態で居ても立っても居られなかった。


「思ったより……は、恥ずかしい……ね」


「……で、ですね」


 先輩は僕の事をどう思っているのか、凄く気になる……。

 でもそんなこと怖くて聞けない。


「村越君の耳、凄く赤いね」


「先輩だって……」


「そ、そうかな……?ふふっ、なんか恋人っぽいかも」


 先輩は嬉しそうに微笑み、僕の肩に頭を乗せてきた。

 すぐそこに先輩の顔があって、乗った方向に振り向けない。


「……せ、先輩の、胸が……あ、当たってます……」


「ふぇ……?もうっ、えっち」


 耳元で囁かれてるせいで完全に頭の中真っ白。

 これも全部先輩のせいですからね?僕をこんな気持ちにさせるの。

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