第2話

 大樹が上田さんに煽ったことでひと悶着あったが、何事もなかったのように立ち上がる大樹。

 上田さんはまたやらかしたことと申し訳なさそうな表情で大樹の前で俯いてしまっていて、大樹が立ち上がっていることに気が付いていない。


「だ、大樹……また私……」


「気にすんなっていっつも言ってるだろ?そういうとこ含めて好きなんだからさ」


「……大樹」


 また始まった、二人だけの世界が。

 ……恋人が居ない僕には分からないけど、こうして見せ付けられるのは少し嫌な気分になる。


「二人とも、僕のこと忘れてないよね?」


 あ、大樹が露骨に目を逸らした。なんかよく分かんないけど、腹が立ってきた。

 上田さんは……自分の世界に入りきったままか。


「はぁ……いちゃつくなとは言わないけど、それは二人きりの時にしてよ」


「わ、わりぃ……」


「じゃあ僕先に行ってるから」


 そう言い残して教室に向かう僕だけど、あの二人が時間ギリギリになっても教室に来なくて、担任に二人とも怒られてた。









 ★☆★☆★










 午前中の授業も終わって昼休み。

 僕は一人で食堂に向かい、食券機の前で何にしようか悩んでいた時に、僕にとってはとても心地好い声が聞こえた。


「何悩んでるの?」


「せ、先輩……っ」


 滝川先輩はまじまじと僕を見つめて、ふわりと僕に対して優しく微笑む。

 僕はそんな先輩を直視できず、目を逸らした。


「ねえねえ、村越君は何にするの?」


「え、えと……き、今日は日替わりに……」


「ふーん。じゃあ私はきつねにしよっと」


 先輩は手慣れた手付きできつねうどんを頼む。僕は日替わり定食を頼んだが、少々高くて後悔した。

 暫くしてから僕達は空いている席に向かい、先輩と向かい合って座った。


「いただきまーす」


「……いただきます」


「うーん!やっぱりおいしっ」


 美味しそうに食べる滝川先輩と違い、僕は黙々と食べて且つドキドキしてるせいか味が分かんない状態。

 だって目の前にはあの滝川先輩だぞ?どうやって会話したら良いのか全く以て検討もつかない。


「ねえ村越君。一口いい?」


「……え」


「ね?良いでしょ?」


「ど、どうぞ……」


 先輩にチキンカツをお裾分けしようと思った矢先、箸に取ったままの状態で先輩はかぶりついた。

 幸い大きいものだった為に間接にはならないが、それでも今の僕にはとても心臓に悪い行為だった。


「せ、せんぱ――っ!」


「……んー、私もこっちにしたら良かったなぁ」


「えっ……?」


「え?あぁ、気にしないで。こっちの話」


 先輩は今の行為のことを全然気にしてないどころか、普段とかわりない雰囲気でうどんを啜っていた。

 どうやら気にしてるのは僕だけのようだ。


「食べないの?ってああ、そっか。……私のせい、か」


 先輩は思い出したかのように頬を赤く染めて、申し訳なさそうに呟いた。


「……そうですよ」


「ごめんね。友達とよくこうしてシェアするから……あはは」


 ただ目の前に映る先輩は僕の知らない先輩で、恥ずかしそうにぼそぼそと呟いていた。先輩は耳まで赤かった。

 そんなこんなで僕達は昼御飯を取り終えた後、僕は滝川先輩から二人きりになれる場所として体育館裏に。


「えーっと、さっきは本当にごめんね?さっきも言ったけどよくしちゃうから」


「……僕は気にしてませんから」


「本当ごめんね。それで、さ……ここに呼び出した理由なんだけど……」


 滝川先輩はいきなり僕の手を取って、僕にこう切り出した。


「……少しの間だけで良いの。私の彼氏役になってくれないかな?」


「ぼ、僕が……?せ、先輩……の?」


「他に頼める人も居ないっていうか……勢い余って言っちゃったっていうか……」


 先輩に何があったのか知らないけど、これはこれで願ってもないことなのでは……?

 役とはいえ、距離を縮める千載一遇のチャンス。


「僕で宜しければ……」


「ありがと!じゃあ今日の放課後、迎えに行くから!!」


「えっ?!ちょっと先輩――!行っちゃった……」


 成り行きとはいえ、滝川先輩と付き合うことに。

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