第4話 記憶

プルルルルル プルルルルル

『もしもし』

「あ、もしもしお母さん?ごめん連絡遅なった。無事着いてるからね」

『ほんと?遅いから心配しちゃった。でも安心したわ。迷子にならなかった?』

「うん。流摩くんが駅まで迎えに来てくれた」

『そんなんだ。一緒に暮らせないのは残念だけど、光波、おかえり。困った事があったらいつでも言ってきてね』

「ただいま、ありがとう」

お母さんは千葉県で小さな養護施設を経営している。

年齢は36歳。こうやって時々連絡はとっているものの5歳から一度も会っていない。

でも誕生日やクリスマス、入学式や卒業式には必ずお祝いが届いた。不思議と東京で過した5年分の写真は1枚もなく、お母さんの顔も曖昧だ。

「なぁ、流摩くん」

「ん?」

「お母さんてどんな人なん?」

家に向かう車の中光波は聞いた。

「春子さん?ひょっとして春子さんの事も覚えてねーの?」

公園での会話で打ち解けたのか流摩の口調はすでに砕けていて、光波にはそれが心地良く感じた。

「うん。やっぱおかしいよな?あたし記憶喪失なんかな?」

さすがに流摩も違和感を感じたのか、一瞬黙り込んだ。

「何かあった?」

「いや、ない。それに誰の事も顔と出来事忘れただけで存在は知ってたからなぁ」

頬を膨らましながら光波は頬杖をついた。

「あ!何か昔話してや!聞いたら何か思い出すかもしれんやん」

「昔ばなしぃ?」

流摩は眉を歪ましながら言った。

「嫌やったら別にえーよ」

ぶっきらぼうに口を尖らせる光波を見て

流摩は笑った。

「わかったよ。でもあと少しで家だから帰ってからな。後、流摩でいい。くん付けられると気持ち悪い」


街頭と満月が綺麗な夜道、2人は家へと向かった



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君に辿る路 Kiki✩.*˚ @-borari-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ