第十一話 見て来なさいパラド

「勇者様!さきほど魔王軍から二日後にこの街を攻めると通告してきました!」


 街に戻ってきて早々に門番から呼び止められ偉い人の一室に案内された一向に告げられた。


「帰ってきて早々勘が当たるってすごいね、尊敬したくないし欲しくもない勘だけけど」


「そもそも通告してくる時点でおかしいと思うのだが?天敵に準備期間を与えるようなものではないか」


 パラドの純粋な疑問。敵に対して本気で潰し合いの戦争を仕掛けているのにわざわざ不意をつかず奇襲しないのか?


 田舎者の疑問を経験豊富な勇者が答える。


「…………それが狙いなんだよ。ギリギリ逃げるか防衛するか悩む与えられた期間、僕が、人類の希望がここにいる事を知ってる住民は避難する必要はないと思いこむ。そのせいで心理的に逃げ場を一つ奪ってくるんだ。それに、僕たちは彼らを見捨てる事なんてできないからね」


「相変わらず卑怯です。勇者様の優しさを利用するなんて」


 無表情で憤怒しているオーラを噴出させている僧侶に恐怖を隠せない一同、女神様の転生体なのに鬼、いや般若が見えるのはどうかと思う。


「それでどうするんだ?どこから攻めてくるとかは聞いてないけど」


「そ、それが指定した日にこの街を攻めるとだけで…………」


「宣戦布告したとはいえ陣地は明かすことはないか。二日で街攻めをできるなら近くに陣地はあるはず。斥候が必要になるな」


 重戦士というだけあって戦の知識を用いり、相手の攻め方からどうするか考えている知的な姿がなんとも違和感を持つ。


 パラドのイメージは脳筋女重戦士だったが、こう頭が回転するのは意外だった。


 もちろんモロに顔に出すと殴られるので微妙な表情を作っておく。


 しかし、重戦士はパラドが何を考えているか察したようでむっとした顔を作るが、事が事なのでとりあえず放置するつもりらしい。


 ここからは勇者達と街のお偉いさんとの話し合いでどうするか、というのは方便でこの時点で決まっていることを改めて確認しどう対処するかを考える。


 パラドは村人である、特に戦ったことがないのに軍事とか分かるはずもない。


 自然と除け者になり、部屋の隅で待機するのは当然だった。


 話し合いに参加することもなく暇すぎたので居眠りしてしまうのも当然であろう。







 〜●〜●〜●〜●〜









「ということで君が偵察役の一人になることに決定した」


「うん、居眠りしてたのは悪いと思ってるけどいきなりド素人が死地に放り出される気分にもなってくれる?俺捕まったら全力で命乞いするよ?」


「自爆したら蘇生しますから!」


「自爆したくないから命乞いするの!最期の一瞬は凄く辛いんだからな!?」


 自爆前提で話が進んでいたためて駄々をこねてみたが蘇生できることを盾に全く歯が立たなかった。


 よく考えたら普通に蘇生というチートを平然と使っているため命を失う恐怖が薄れているのはないかと危惧してしまう。


 まあ、敵から全力で狙われているため蘇生くらい使っていいでしょ感覚で女神が転生したせいである、すべて女神が悪い。


「へくちっ、いま不届き者が私を罵倒した気がします」


「不幸な目にあった人が呪ったんじゃないの?」


「やめてください縁起でもないことを!確かに神は全知ですが全能とは…………」


 何かつついてはいけないところに触れてしまったらしいので一同はスルーした。


 流石に本人の確認を取らず仮任命したため拒否権はあったらしい。、その確認を怠らなければパラドは拒否していただろう。


「あー、もう分かったよ!ただ捕まって情報を吐けば傷一つなく返してくれるって向こうが言うなら俺は知ってること全て喋るからな!」


「とはいっても大したモノはないんだけれどね」


「それ以外は自爆する」


「あんた潔いのか何なのか分からん…………」


 衛兵らしい人物がパラドをそう評した。


 まあ無理もない、これと言った勇気はさほどであり先日まで役に立たないスキルを持つ本当にただの村人が偵察を務めるのは少々無理がある。


 見た目が本当にこれと言った長所もない村人なのでそこまで警戒はしないだろうが、キツイものはキツイ。


 けれども断りづらいということもあってパラドは偵察部隊の一員として送られていった。


「彼は大丈夫かなあ」


「軽くどうすればよいかの説明はしているので大丈夫でしょう。なんたって勇者様のお仲間ですからな」


 それは過剰評価であることは誰も指摘しない、指摘したらなんであんな奴がいるんだと言う話になってしまうからだ。


 そうなれば嫉妬の的になるパラドはどうしようもないし勇者の評判も怪しくなる。


 よって、黙らざるを得ないのだ。


「少し不安だな。やっぱり人選が間違っているんじゃないか?」


「間違ってるだろうけど、送り出した以上仕方ないわ」


 そして五時間後、その頃になると夜になったが少しの地響きと共に遠くに光の柱が立った。


 それが何を意味しているのか、街の住民は神の奇跡と呼び、勇者は奇襲の一手と呼び、通告よりも早く戦うことになった。


 その功労者は後に言う。


「なんか普通に捕まって幹部っぽいところまで連れてこられて、しかも拷問してきそうになったから自爆しました。俺はこの作戦二度としたくないと言いたいけど割と奴らを減らせるので我慢します」


 何故ベストを尽くそうとしてしまったのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者パーティーに明らかに役に立たなさそうな人が混じってるのですが 蓮太郎 @hastar0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ