第十話 連携は辛いよ

「もうちょっと右!おそい!もっと早く動いて!」


「初日から相当な無茶いいよるな!」


 パラドと魔法使いはバタバタしていた。


 その理由、というよりも状況を説明すると『パラドが魔法使いを背負った状態でイノシシに追いかけられており、紙一重で避けているがよく動くため魔法使いの攻撃が当たらない』と言うわけである。


 パラドにとって初めての狩りである上に常に移動しつつ、揺れながら魔法を唱えると言う至難の技をどう動くか分からない他人とぶっつけ本番でやっているため当たり前と言えば当たり前の結果である。


「はあ、はあ、ちょっと休みたいけどダメかな!」


「ダメに決まってるでしょ!せめてアレを倒してから言いなさいよ!」


「じゃあさっさと倒してくれよ!」


「じゃあもっと揺れを少なくして!そろそろ気持ちも悪くなってきた!」


「俺の上で吐かないでくださいよ!?」


 本当に賑やかで困ったものだったと勇者は言った。


 その勇者達はというと気配を消してこっそり様子をうかがっていた。


「まあ、ああなるよね」


「予想はできたことですけど初めてにしては上々じゃないですか?」


「鍛えているとはいえあの程度か。いや、ただの村人にしてはよくやった方か」


「勇者様ー!こいつ役に立たないですー!」


「だったらイノシシをさっさと倒してくれ!どんどん増えていってるんだよ!」


「いやあああ!ほんとだあああ!」


 騒ぎすぎたせいで集まってきたイノシシに追い回される2人。


 そろそろ助けてやってほしいところではあるが、まだ様子を見る。


 極限までの状況を作りいざという時に備えてどう動くかを考えてもらわなければならない。


 場合によっては魔法使いを背負うパラドが先頭に参加せざる得なない可能性を改めて実感させられる。


 ほぼ無理矢理勇者パーティーに参加させられた故に、必然的なことであったのだ。


「はぁ、はぁ、流石に人1人を背負って走るのはキツすぎる…………」


「うっぷ、だったら根性見せなさいよ…………」


「降ろすから吐くの我慢してくれよ!?」


 すぐに魔法使いを降ろし、木の裏まで行って見えないところで何かおぞましい音を立て始めたことで大惨事だけは免れた。


 先ほどまで乗り物になっていたパラドはその場でしゃがみこんで休憩をとっている。


 日ごろからある程度鍛えていたとしても長時間人を背負い激しく動き続けることは重労働であった。


 ただ、村に残してきたユノの無茶ぶりと比べたら…………と考えると少し気が楽になったパラドである。


 正直なところイノシシに追われるより幼女の遊び相手の方が疲れると言うのはどうかと思う。


 『怪力』スキルが悪さをしているのがいけない。


「まだまだつかめそうにないらしいね。はい、お水」


「ありがとさん…………ぷはぁ、こいつは生き返る」


「私の蘇生とどっちが生き返りますか?」


「転生した女神さまの魔法の方が生き返るに決まってんでしょ」


 どこか論点がズレているが僧侶が満足そうな顔をしているので少なくとも間違った回答はしていない。


 ただ、水を飲んだだけで体力は回復しないし魔法使いの酔いは治らない。


 今日の所はこれで切り上げることになった。


「あー、だいぶスッキリしたけど…………」


 先ほど見られていないとはいえ嘔吐の音が聞こえていただろうとちらりと勇者の方を見ている。


 情けない姿をみせてしょぼんとしている、これはどう見ても慰めなければならない。


「まあ、初めてのことだし仕方ないよ。僕だって初めて馬車に乗った時は結構酔ったものだ」


「違う…………そうじゃない…………」


「勇者って朴念仁とかよく言われない?」


「それって精神的に強いって意味だろう?それがどうしたんだい」


「誰だこいつに絶対に必要の知識を間違えて教えたやつは」


 魔法使いはパラドを嫌い、パラドは魔法使いのことをよく絡んでくるヤンキー的な存在と認識している。


 しかし、魔法使いの恋路の不遇さに憐れみを持つかはかなり別の話になるし、やはり勇者の常識がおかしいことを非難する程度には良識がある。


 ここは一発しばき倒した方がいいのかと考えたが、その場合魔法使いが狂犬のように絡んできたり僧侶のありがたーいお説教をいただくことになるだろう。


 故に軽い罵倒だけで済ませた、だって面倒なのだもの。


「勇者様~、背負ってくだーい」


「はいはい、今回だけだよ」


 朴念仁とはいえど普通にやることは変わりなく、『仲間』が疲れているなら手を差し伸べる。


 優しさに表裏がないところが勇者として万人が尊敬できることであろう。


 魔法使いを背負った勇者が、朗らかな微笑みから急に何かに気づいた顔になる。


「…………なんか帰ったら嫌な予感がするよ」


「いくら冗談でもたちが悪いって」


「「「…………」」」


「あの、お三方なんで神妙な顔で黙ってるんです?勇者がこう言ったら必ずなにか起きるみたいなコトでも…………」


「そのまさか」


「こう言ったら当たるんですよね」


「勇者様の勘は野生の動物よりも鋭いぞ」


 パラドは顔を青くした。


 これからトラブルが確実に起きると言うのに自爆しか特技がない彼が巻き込まれることは確実なのだから。

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