第九話 筋トレは偉大
「山上ってたら体力が尽きて重戦士に背負われ続けてたと。そういや徒歩でも大体荷物持ちの俺が背負う役してたからな」
「ぐ、ぐぬぬ、私がお荷物と言いたいわけ!?」
「そういう事じゃって魔法を放つ準備するなバーカバーカ!」
「偉大な魔法使いにバカというやつは誰だぁぁ!」
「簡単にムキになるなってんだよ!」
ドタドタと疲れているはずの魔法使いがパラドを全力で追いかける…………それでも魔法使いの足がかなり遅く追いつけてすらいないが。
10秒くらいすると疲れを思い出してしまいすぐにばてて倒れてしまった。
汗を大量に流し池を作るのかというほど広がり始めたところで重戦士が無理やり魔法使いを起き上がらせて水浴び行ってくると言うだけで去って行った。
「あれはあれで大丈夫なのか?」
「元々体力がない子ですから。少し休めば少し回復します」
「それ普通のことをもっともらしく言ってね?」
疑問を口にしても受け取る者はいない、いつものことである。
しかし、魔法使いの体力のなさはかなり問題となる。
常に移動しなければならない戦場でちょっと狩りに行くだけでこの有様、村人のパラドよりも遥かに下回るそれはいくら何でも酷過ぎた。
「筋トレさせて少しでも鍛えさせた方がいいんじゃないか?戦いをよく知らない俺が言うのもなんだけど、これからもっと魔王軍の攻撃が激しくなるんじゃないの?」
「鍛えることができたらいいんだけどね…………」
その言い方はまるで魔法使い自体に問題があるように聞こえた。
そして顔を逸らすあたり、かなり根が深そうにも映った。
「もしかして本人が鍛えることを拒んでたり?」
「そんな贅沢はいってないよ。彼女は、その…………」
「そんなにもったいぶることあるのか?」
「筋肉がつかないんですよ。呪いかと疑うほどに肉体を鍛えると魔力だけが強くなった行くと言う特異体質なんです」
聞いたことのない体質だが、本人だって改善しようとしいただろう。
高い目線からの物言いが多い魔法使いだが、彼女が気高く、そして勇者パーティーの一員として侮られないようにしている努力の現れである。
それ故に納得できる、よほど特殊な事情があるからああなってしまったと。
「なんつーか、魔法使いでよかったなとしか言えない体質だな」
「全くだ。あれで魔法使い以外となったら何になるんだ」
「もともと頭のスペックはよかったし官僚とかじゃない?」
「官僚って就くのがかなり難しいんじゃないか?うちの村から一人一番賢い奴が官僚になるって出ていったけどもう五年は手紙もないし」
「それ、生きてるかどうかすらあやしいんじゃ…………」
「あー、あー、聞こえない聞こえない。そもそもあの筋肉モリモリマッチョマンで熊を素手でノックアウトした
「なぜ戦士じゃなくて官僚を目指そうとしたんだその人」
今でもその謎は村でも解き明かされていない。
関係ない話は置いておき、流石に魔法使いの体力のなさをどう補えばいいのか考え始める。
「普通の回復じゃダメなのか?」
「回復できるにはできます。その反動を後に回すと言うだけで死ぬほど苦しむので…………」
「大体分かった。何日も動けなくなるってことだな。うん、筋肉痛は辛いもんな…………」
「筋肉痛になった経験あったのか。意外だな」
「あのねぇ、こっちは農民でもあるんだ。畑仕事しないと毎日を食つなぐ食糧が無くなる、これがどれだけ重要な事かわかってんの?」
「そう言えばお前はそうだったな。すまない、軽率だった」
「はぁー、まったく。俺がいなかったらどうするつもりだったんだ」
本当に人をなんだと思っているのかという態度でため息をつく。
少々イラっとしてもパラドは身の丈にあった生き方をしているだけであり、少し態度がでかいくらいで突っかかる理由もない。
「それで話を戻すけど魔法使いを背負うことについては」
「やるよ、やらなきゃ重戦士が代わりにやるんだろうけど、それじゃあ余計に機動力落とすだけだろうし。待てよ、俺が荷物運びの役割してたから魔法使いを背負ったらバックパックを前にするから、流石に長い時間そうするのはしんどいぞ」
「街から街くらいの間なら魔法使いが荷物をほぼずっと浮かせてくれますので大丈夫ですよ」
「今までの俺の意味!」
パラドが勇者パーティーに正式にいる理由を潰されたが落ち込んではいけない。
これから魔法使いを高頻度で背負っていくだろうと思い改めて申し訳程度に筋肉を鍛えることを決意したパラドだった。
『弟分のパラドよ、筋肉は、いいぞ』
「幻聴が!マッキン兄さんの幻聴が!」
「落ち着いて、それはただの幻覚だと思う」
突然の幻聴に悩まされながらもいつでも動けるよう暇な時は筋トレに励むのであった。
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