第八話 都合のいい足
「このまま魔法の訓練に付き合うかそれ以上追求しないかどっちかを選びなさい」
「だって勇者は本人に聞けって言ったんだ!俺は悪くねぇ!」
壁に奇妙なポーズでもたれかかっているパラドは叫んだ。
それを象るかのように壁にパラドの周りだけあえて外したように魔法を撃ち込まれた跡が残っている。
誰がどう見ても逆鱗に触れた証というだろう。
これが宿屋の中での話でないならこの時から少しの間は笑い話になっただろう。
「すみません、壁の修理代はこれで」
「いえいえ!痴話喧嘩とはいえ勇者様のお仲間の魔法の跡だからむしろ目玉になります!『魔法使いと荷物持ちの喧嘩跡』って!」
「それでも一応…………」
「義理堅いんですねぇ。でもこれを利用させてもらうので結構ですよ」
「しかし…………」
その一方で勇者と宿屋の主人が押し問答を繰り広げられていた。
どちらも正直者ということもあり、修理費を渡すのと焦がしたおかげでもっと稼げるという一行に終わらない茶番が繰り広げられている。
そしてその様子をいつものように眺めているのが僧侶でどうすればいいのか分からない重戦士がキョロキョロ見渡していた。
「なあ、あれはあれでいいのか?」
「ええ、ああしていれば勇者様から折れてくれるので放置しておけば問題ないです」
「そっちもあるけど魔法使いの方は?どう見ても命の危機にあると思うのだが」
「ああ見えて加減はしてます。戦い以外で不満を発散させるいい機会ですし、何なら変わってあげたらどうですか?」
「それは御免被る。遠距離を得意とする相手は苦手だ」
どこかずれているが、巻き込まれたくはないということだけは分かる。
「あの、そろそろ助けてくれないかなぁ!?」
もはやポーズを保つのがきつくなってきたパラドは助けを求めることでようやく解放された。
「なんなのあの子、割と本気で殺すつもりにしか見えなかった!」
「まあ、普通恥ずかしい話を本人から聞くのはどうかと思いますけどね」
「だって勇者が喋ってくれないのが悪い!知らないなら知る権利くらいあるだろ、失敗を繰り返したいのかー!」
「うるさいうるさい!もう二度とやらないわよ!」
この発言に対し、パラドは目だけだ笑っていない僧侶をちらっとみて何度もやってるんじゃないかと疑惑を持つが、これ以上追求したら今度こそ消し炭になりそうなので黙った。
一方で顔を真っ赤にして拗ねてしまった魔法使いはぐちぐちと文句を言っている。
「ここ最近かまってくれなくなったのもあいつが入ってからだし、そもそもスキルの需要があるのかどうか怪しいし、最近甘えても流されるし喋りかけてもスルーされること多くなったし…………」
大体が勇者の朴念仁についてにすり替わってしまっていたが聞かなかったことにする。
「そんで、今日は狩りだっけか。先に言っとくけど俺は何もできないぞ?弓どころか剣すら触る機会がなかったし」
「知ってるさ。面と向かって言うのもなんだけど、僕たちについてくる必要はないよ。むしろばったり魔族の密偵とあったりしたら危険だろう」
「普通そんなこと起きるわけないんですけどねぇ…………」
「ちなみにここ数年で狩りの最中に魔族と出会うことが十回以上はありました」
「やだこの勇者、厄介ごとを持ち込むスキルがある…………?」
「勇者の時点で厄介ごとをよく持ち込んでると思うぞ。ここ数年でやったことを記録したものをだな」
「貴方は懐という名の鎧から分厚い本だすな。なぜ胸のスペースから出したし」
鎧の隙間から本を出した重戦士の様子から話が長くなると思ったパラドは僧侶の方をちらっと見た。
先ほどの補足を加えただけで特に介入することはなく優雅に紅茶を飲んでいた。
「ツッコミ不在かこれ!今までよく破綻しなかったな!」
「ツッコミはどうでもいいけどそろそろ狩りに行くよ」
「はーい、ちゃんと収入を得ないといけませんからね。働かざる者食うべからずです」
「やだ、スルーされた。あとそれだと俺は飯食えないんじゃね?」
「留守は任せたぞ。決して片手に荷物とか漁るなよ」
「はいはい、役立たずは宿で待っときますよーだ。気をつけて帰ってきてくれよー」
留守番くらいしかすることがないのでパラドは部屋に籠ることにした。
「勝手に荷物を漁って売ったりするなよ」
「そんなことしたら死刑になるのにやる訳ないだろ!俺は部屋に戻るぜ!」
妙に死にそうな奴の台詞を吐いたが実際やることはそれしかない。
こうして勇者達とパラドは二手に別れることになった。
これがいつまでも続く訳ではなく、そしてある問題を解決することに繋がるとは誰にも思わなかっただろう。
「村人!恥を忍んで頼むわ!明日から私を背負って!」
「……………………は?」
なぜか分からないがこうなった。
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