第32話 事後の処理
王都に戻ってきたアルルカの懐は、かつてないほどに潤っていた。
まず、ダンジョン内で拾い集めた魔石の換金により、1ソルと少し。
そしてウエストエデンの緊急事態収拾の褒賞として、25ソルを渡されている。
この中にはベルガトリオが受け取る分も含まれているらしいが、彼はこういう謝礼をまともに受け取らないとのことで、アルルカとチセに分配された形だ。
本来なら、四人組の冒険者にもいくらか渡すべきなのだろうが、命だけで十分だ、と丁重に断られてしまった。そこまで言われてなお押し付けていくほど慇懃なタチでもないので、ありがたく受け取った次第である。
「フフフ……懐が温かいのはいいことだ」
「良かったですね、アルルカさん」
「浮かれて変に浪費したり、財布を置き忘れたりしないように。私が預かっておきましょうか?」
「しないよ! 子供か!」
「でも、大人のほうが浪費しやすいと思う」
「あぁ、うん……これ何の話? まあいいや。預かるっていうなら、この毛皮を預かってよ。キミの倉庫にさ」
「嫌。臭いが移るじゃない」
「直球だね」
「というかあなたもひどい臭いよ」
「チセさん!?」
「わかってるけどさあ!」
「とりあえず、皮から処理しましょうか」
チセの指示に従って、住居区域近くにあった用品店で、何かの錠剤と木桶、口鼻を覆う防毒マスクを購入する。それから一直線にチセの家に戻ると、玄関の前で、マスクをつけたチセがようやく毛皮を引き取ってくれた。
「二人は少し待ってて。薬液に浸けてくるだけだから」
「手伝おうか?」
「アルルカ。待ってて」
「あ、うん……」
言葉に圧を感じ、素直に引き下がる。自分の腕をすんすんと嗅ぐと、鼻が曲がりそうな獣臭がこびりついている。
「うえ……慣れたと思ったけど、キツいものはキツい。魔法で消せないのかな?」
「簡単なにおいなら浄化魔法で消せるのですが、そこまで強いものだと、消臭専門の魔法が必要かと。わたくしは使えませんし、チセさんも、使えるのなら使ってくださったでしょう。お風呂に入ったほうが早いかもしれませんね」
「お風呂?」
「アルルカさんには、人工的な温泉、というのがよろしいでしょうか。王都の西区には、大きな大衆浴場があるんですよ。わたくしも入ったことはないのですが、なかなかの評判のようです」
「へえ。それはいいな。温泉か……知識はあるが、入ったことはないなあ。よし、せっかくだ。行ってみようじゃないか」
「そうね。私もそのつもりだったわ」
と、そこでチセが玄関から出てくる。本当にすぐ終わったらしい。
「あ、チセ。お疲れさま」
「というか、いまはアレをシャワー室に置いてあるから。二、三日は使えないと思ってちょうだい」
「そ、そうですか……」
「なら、もはや迷うことは何もない。お風呂とやらに行ってみよう!」
アルルカはご機嫌で王都を東から西へと横断し──件の大浴場の前で、膝から崩れ落ちた。
王都のほかの建物とは少し趣の異なる、独特の木造建築。
その入り口には、見るからに急ごしらえの紙が張り出されている。
臨時休業。
「なんで! なんでさ!?」
「何かあったのでしょうか?」
「浴場は他にもないわけじゃないわ。別のところに行きましょうか」
「しかし、ここが一番良い場所だったのだろう……?」
「……まあ、そうね。でもしょうがないじゃない。あなた、その臭いを落とさなかったら、家には入れてあげないわよ」
「うう……楽しみにしていたというのに……」
アルルカが涙目になっていると、建物の中から、従業員らしき女性が出てきた。
「申し訳ありません、お客様。ご覧の通り本日は休業でして」
「何かあったの? いちおう、私たち冒険者だけど」
「冒険者、ですか。しかし……」
言い淀む。つまり、まるきり否定ではないということだ。
アルルカはすっと立ち上がり、できる限りに胸を張った。
「何かあるのだな。腕なら心配するな! 今朝、ウエストエデンの危地を救った冒険者といえば、ワタシたちのことだ!」
そしてちょっと話を盛った。チセが何か言いかけたが、結局黙っていることにしたようだ。
「なんと、あの騒ぎを。……であれば、お話いたしましょう。お話させてください」
従業員の女性はこほんとひとつ咳払いをして、告げる。
「実は、大浴場を謎の
「は?」
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