第11話 神の眼
「……ひどい目にあった……」
アルルカはマリーの魔法で手当てを受けながら、恨めし気に呟く。
ミミックはただの小箱と魔石となって沈黙しており、もはやアルルカの指先に噛みついてくることはない。が、それはそれとして、アルルカはまだその箱から目を離せないでいる。
「災難でしたね。中身のわからないものはわたくしにいただけますか? 鑑定いたしますので」
「そうだね。もう噛まれるのはごめんだ。血を流すと馬鹿になってしまう」
「あはは……。では、鑑定魔法を使いますので。念のため、わたくしの視界には入らないよう、お願いします。
アルルカから視線を外し、魔法を詠唱。するとマリーの青い瞳には、円をいくつも均等に重ね描いた、万華鏡のような彩りが現れた。
「ワタシは何をすればいい?」
「魔道具の中に、製作者の署名が入っているものがあるかもしれません。そのようなものは安全処理がされている可能性が高いので、別にまとめておいてください」
「わかった」
頷いたものの、アルルカはすぐに飽きた。というよりは無為を悟った。
十個ほど確認してみても、署名が入っているものがまったく出てこない。たぶんこれ以上やっても無駄だろう。ひとり納得したアルルカは、マリーの作業を眺めていることにした。
「ねえ、鑑定魔法って、どんな感じなの?」
「どんなといわれると、少し難しいですね。詳しく観察しようとした部分の情報が、思い出させられる、とでも言いましょうか」
「思い出させられる?」
「いえ、実際には初めて知る情報なのですが。そう表現するのが最も適切だと思うのです」
「ふうん……ワタシもやってみるか。あー──神の眼の下……に、
「どうですか?」
軽く笑いながら訊ねてくるマリーに目を向けると、さながら想起するような自然さで、アルルカの脳内に情報が与えられていく。
名前──マリー・アーシャ・オルチェスカ。種族──人間。
保有スキル──【聖石信仰】【巨人の加護】【拍車の加護】【神眼の加護】【修道】。
生物の鑑定は基本不可能なはず、と驚きを口にしかけたが、それよりも僅かに早く、アルルカはその理由をおぼろげに把握した。
閉口して、すべてを見なかったことにする。
「……あ……いや。できているのかな、これは?」
「発動はしているみたいですね。何かに意識を向けてみてください。こちらなどいかがでしょう?」
マリーが手に示した魔道具に目を向けると、やはりすらすらとその詳細が伝わってくる。
「炎を出す魔道具……でも、魔力がかなり濁っているみたいだ」
「素晴らしいです。一見しただけで魔法を習得してしまうなんて。アルルカさんは魔法の才をお持ちでいらっしゃるのですね」
ただ純粋に自分を褒めてくれる声がこんなにも苦しいと感じるのは、アルルカにとって初めてのことだった。
「いや。そんなことはないよ。ごめん」
「……なぜ謝られたのでしょう?」
アルルカは首を振って、マリーに背を向けるようにして山の荷物へと相対する。
「なんでもない。整理を続けよう。鑑定魔法が二つになったからね、効率も二倍というものだ!」
「あはは、そうですね。お昼まであとひとふんばり、頑張ってしまいましょう!」
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