精霊魔法

姉のヴィシュヌが10歳になった精魂式の日、僕達は出掛ける準備をしていた。


ハルワタートの契約精霊のティシュトリヤは、いつものように黒猫になっていた。


僕も、契約精霊アーシラトと話がしたくなって呼び出したが出てこなかった。


不思議に思ったが、まっこんな事もあるだろうと軽く考えていた。



兄の時と同様に7人で教会まで来た僕らは今回はあまり待つこともなく

大神官アぺイロン様に姉ヴィシュヌの精魂式を行って貰うことができた。


予想通り、姉の魔法属性は上位属性の精霊魔法だった。


契約精霊は英知の精霊“サラスヴァティ”


兄の3属性魔法のこともあったので公爵家の当主としての父は少し不満そうだった。


姉がサラスヴァティと契約を結んだとたん神座が輝き僕の精霊?


全能の精霊“アーシラト”が現れた「なんで?」ハルワタートが驚き気に呟いた。


僕も父様たちも全員驚いていたが、僕とハルワタートの驚きは別だ

僕だけに聞こえる声で「兄様、アーシラトは兄様の契約精霊様ですよね?」

とハルワタートが聞いてきたが僕は何も答えることができなかった。


何も知らない姉は全能の精霊アーシラトとも契約を交わし、

王国初の2体の上級精霊と契約する精霊魔法使いとなった。


大神官様や父様たちが歓喜している中、僕とハルワタートだけは複雑だった。



家に帰り自室に籠った僕は再びアーシラトを呼び出してみたが全く反応が無かった。





暫くしてハルワタートが黒猫のティシュトリヤを連れて僕の部屋に来た。


「兄様、ティシュトリヤが言うには兄様とアーシラト様は仮契約だったので8歳の兄様はまだアーシラト様の主として認められていなかったのではと」


複雑な心境だが確かにそうか本来なら10歳にならないと魔法を使えないと考えるとそういうことかと納得する。

「僕はまだまだ未熟だな」と呟くとハルワタートが「そんなことありません」と大きな声で反論してきた。


「兄様は立派です。私の目標なんです。たかが契約精霊いいじゃないですか」

そう言い切った後、ティシュトリヤがムッとしてるのを見てハルワタートは慌てて「ティシュトリヤは私の家族で大切な仲間です」と弁明していた。


「ハルはすごいな。ティシュトリヤとの絆がしっかりしてる。だから8歳でも契約ができてるんだな僕はアーシラトとそんな関係にはなれなかったよ」


僕は、契約精霊様をどこかで便利な道具として見ていたのかもしれない。


結局、アーシラトとの契約解除も僕の不徳の致すところなんだよな


ちょっと待てよ……、魔法を行使出来たのはアーシラトの力だと思っていたのだけど

まだ、魔法使えるのかな?無詠唱で使えるのかな?ハルワタートの前で使うのは問題ありそうだなどうしよう?今更ながら変な疑問と変な汗が出てきた。


ハルワタートが兄の魔法属性について知っていることをアムシャは知らない。


アムシャがハルワタートの前でうんうん悩みだした事で可笑しくなったハルワタートが聞いた「兄様、どうしたんです?急にうんうん言い出して」

微笑むハルワタートに一瞬、木野崎恋の面影を重ねた。


そうだ、僕はハルワタートをあの子を守らなければいけないんだ。


でも、嘘告されそうになったしなぁ~~と今度は落ち込む。


ハルワタートは態度を二転、三転、変化させる兄に今度は声を出して笑いだした。


「ハルがいてくれて助かったよ。僕もハルが心の支えだよ。これからもよろしくお願いします」改めて感謝の気持ちを伝えた。


ハルワタートは真っ赤な顔をして俯いたまま「私もよろしくお願いします」

と小さな声で言った。


なんか告白してるみたいだなと思ったら急に恥ずかしくなった。


二人とも顔を真っ赤にして俯いているのだった。






8歳の双子がそんなやり取りをしている間に王国は初の2精霊それも上位精霊と契約するという公爵家の長女の快挙に一喜一憂していた。


急遽、会議を開き2精霊の契約精霊魔法使いをどう扱うか議論していた。


「私としては早々に魔法学園へ入学させるべきかどう考えます」

と宰相のゴンドールが発言するが国王陛下は頭を抱えて


「宰相、魔法学園は13歳からと決まっておる。しかも公爵家には3属性魔法使いの長男もいる。特例とはいえ妹が先に入学するというのはな公爵もいい気はせんだろ」


「確かにそうですが国の利益を考えますと学園に取り込んでおくのが良いかと早くしないと早耳の上位貴族あたりが目を即けるかと思われますし、公爵家の娘となれば隣国も名乗りを上げかねません。公爵家の娘は見目麗しい文武両道の才女と聞きます。いっそのこと王子の許嫁にどうかと」


「馬鹿を言え、王子の許嫁はヘネシー侯爵家の娘に決まっている今更変えられるか

それに公爵家の長男の許嫁を第3王女と決めたばかりだろうが。公爵家にばかり肩入れをして居れば国が傾わ!」


国王陛下と宰相が議論している会議室に突然、伝令の兵が入ってきた。


「失礼します。国王陛下、宰相様、フラウミルヒ公爵様が謁見したいと申しております」


「ん、確かに公爵には王都に来るように呼んだが、公爵領からだと早馬でも3日はかかるだろいくら何でも早すぎるが本人なのか?」宰相が伝令に聞くと


「確かに本人です。紋章も確認しました。公爵様と小公女様、お二人がいらしており

ます」宰相は疑っていたが「噂の精霊魔法使いか、通せ」


公爵の娘も来ていると聞いて国王は謁見を許可した。


会議室の扉が開き堂々としたフラウミルヒ公爵と10歳とは思えない程、落ち着いたヴィシュヌが入ってきた。


「国王陛下、宰相様この度は急な訪問にもかかわらず謁見いただきありがとうございます。ジャブダル・ジユニ・フラウミルヒ参上いたしました」と頭を下げた。


「娘のヴィシュヌ・ジユニ・フラウミルヒです。国王陛下にはご健勝のこととお慶び申し上げます」綺麗なカーテシーを決め父と同様に頭を下げた。


10歳の娘の凛とした佇まいに国王陛下も宰相も警護の兵までも目が離せないでいた。


「そなたが噂の精霊魔法使いか、二人とも面を上げろ」照れ隠しに少々乱雑に言葉をかけ国王陛下と宰相は話し始めた。


「ところで、なぜこんなに早く王都に着いた?早馬でも3日はかかる距離を」

と早速疑問に思っていたことを国王陛下は公爵に聞いた。


「はい、娘の契約精霊の力です。空間移動の魔法の様です」


「なっ‼空間移動とはまた高度な魔法を・・・。神話級ではないか」


宰相が驚きこれだけでも国を傾けかねないなと危険を感じた。


「面白い、実に面白い他に何かできるのか?ヴィシュヌよ」国王陛下が聞いた。


「はい、大体のことはできます。ただ、魔力を使うので私の魔力総量の範囲ですが」


「ほう、サラリと自分の弱点まで晒すとはどこまでも殊勝なこと、魔力さえあれば何でもできるという事か成長が楽しみだな、公爵よ」



「ところで契約精霊を顕現させることは可能か?」


「国王陛下、空間移動に魔力のほとんどを使ったので今は無理です。明日ならば顕現させてご覧に入れます」


「うむ、分かった。今日は王城で休めばいい」


「はい、それでは失礼します」




2人が退室したのを確認し、また国王陛下と宰相は議論を始めた。








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