第5話 喜んでお受けいたします
その後、アルフィン様の指揮でパーティは解散となりました。
ヒンスリー王国の国王陛下が戻られましたら、速やかにオーマン様には処分が下るでしょう。そして晴れてユリアナ様はオーマン様の婚約者から解放されるわけです。
「さて、ここまでは計画通り、ですよね?」
シン、と静まり返った会場で、わたくしとアルフィン様は二人きりとなりました。
「ええ。これであなたが王位を継ぐことになりますわね」
「はい。この国の考えは古い。改革の余地がありすぎるから、これからますます忙しくなりそうだ」
「頑張りどころですわ」
にこやかに会話をしていると、不意にアルフィン様が真面目な顔をしてわたくしに向き合いました。
――ああ、今、ですのね。
わたくしも居住まいを正します。
「ヴァネッサ様。僕の申し出については、前向きに考えてくださいましたか?」
「あら、なんのことでしょう」
「……もう一度言わせようなんて、狡いお人だ」
だって、大切なことですもの。
改めて、もう一度お聞きしたいではありませんか。
素知らぬ顔で少し意地悪を言いましたら、アルフィン様は徐に片膝をついて跪かれました。わたくしの手を取り、手の甲に唇を寄せられます。絵本の中の王子様のようで、不覚にもときめいてしまいました。
「僕と結婚してください。ヒンスリー王国を共に導いていただきたい。ユータカリア王国の改革の数々を、我が国でも成し遂げていきたい。そのためにはあなたが必要です」
「――お受けいたしますわ」
「本当ですか!」
「ふふっ。ええ、根負けですわ。それに、この国は叩き直し甲斐がありそうですから、退屈せずに済みそうですわ」
そう、実はわたくしはずっとアルフィン様に求婚され続けていたのです。
どうやら幼い頃に王国同士の交流の場で出会った頃から想ってくださっていたのだとか。
わたくしには大切な任務がございましたので、ひと段落つくまでは、とお返事をお待ちいただいておりました。
アルフィン様はわたくしと結婚することで、ユータカリア王国を後ろ盾に得ることが叶います。これで第一王子擁立派を黙らせることができるでしょう。
恐らく、ここまでがヒンスリー王国の国王陛下の思惑だったのでしょうね。もちろん、アルフィン様を選んだのはわたくしの意思ですけれど。
「でも、後進的な我が国との婚姻をあなたのお父上は認めてくださるだろうか」
「あら、わたくしのお父様は改革が大好きなお方ですもの。むしろわたくしのことを羨むでしょうね。この国には改革の余地がありすぎますもの」
楽しそうなことに目がないお人ですから。
狡いぞ狡いぞと年甲斐もなく駄々をこねるお父様の姿が目に浮かぶようです。
「はは……耳が痛いよ」
「うふふ、では、これから二人一緒に楽しく国を盛り上げてまいりましょうね」
わたくしたちは手を取り合って会場を後にいたしました。
わたくしの母国であるユータカリア王国は、実力が伴えば、平民でも登城できる登用制度を整えておりました。
子は宝だと、全国民登校制度を導入し、無償で全ての子供が学校に通えるようにもなっており、財力や権力でのし上がってきた貴族も慌てて学問に力を入れ、切磋琢磨し合う良好な関係を築けているのです。
そうした制度をヒンスリー王国にも取り入れ、政治中枢に根を張っていた古参貴族も綺麗にお掃除いたしました。政治に口出ししようと画策していた神殿も黙らせましたわ。
アルフィン様が即位されたヒンスリー王国は、のちにユータカリア王国に並ぶ大国として名を馳せることとなりました。
身分の差に関わらず、民は生き生きと暮らしております。
他国の模範となる政策を次々に打ち出しましたので、各国から政治の勉強に王族の皆さんが詰めかけるようになりました。
え? オーマン様がどうなったか、でしょうか。
わたくしの調査で明らかになった数々の愚行に合わせて、隣国の王族を貶める行為をしたのですから、国王陛下が帰国後に廃嫡され、平民に落とされました。放っておいてもよかったのですが、あまりに哀れでしたので、お兄様に頼んでユータカリア王国で下働きとして雇っていただきました。
お兄様はとても厳しいお人ですから、毎日ビシビシ扱かれて、オーマン様の腐った性根も叩き直してくださるでしょう。
それに、オーマン様には個人的な恨みがあるようです。
お兄様は王妃となられたユリアナ様を心から愛していらっしゃいますから、ユリアナ様を長らく無碍にしてきたオーマン様が許せないのです。
ちなみに、アリス様はこの国で最も厳しい修道院に送りましたわ。彼女も心を入れ替えてくださればいいのですが。
あ、わたくしですか?
わたくしはアルフィン様にとても大事にしていただいておりますわ。国母として国民からも厚い支持を受けております。
やるべきことは盛りだくさんですが、毎日とても充実しておりますの。
今は次期国王となる我が子にわたくしの持ちうるすべてを叩き込んでいるところですわ。
アルフィン様に似て、知的好奇心が強くて勉強熱心ですので、ヒンスリー王国はこの先もきっと安泰でしょう。
ーおしまいー
ーーーーー
最後まで読んでくださりありがとうございます!
お久しぶりです…!汗
断罪劇からのざまあものは実は初めて…?
一晩で勢いで書き上げましたが楽しんでいただけましたでしょうか?
オーマンはとことんお馬鹿でしたね。
家名で隣国の王族だと分かるでしょうに……
それほど外交のことも地理のこともなんにも勉強してないのです。今頃お兄様のもとで血反吐を吐きながら働いていることでしょう。
ヴァネッサは学園のマドンナ的存在で、完璧なヴァネッサが疎ましかったオーマンさんは、最も愚策を講じてしまったわけですね。
ちなみに、ユリアナを溺愛しているお兄様は、オーマンがユリアナの視界に入らないように完璧にコントロールしています。
他サイト様でコンテスト参加中の作品があるのですが、こちらには折を見て投稿したいと思っています…!しばしお待ちを…!
どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜 水都ミナト@【解体嬢】書籍化進行中 @min_min05
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます