第4話 経緯をお話しいたしましょう

「わたくしは、ヴァネッサ・ユータカリア。ユータカリア王国の第一王女でございます」


「ユータカリア王国……第一、王女……⁉︎」



 ここでようやく私の家名が隣国の名と同じことに気付いたようです。あえて公言はしておりませんでしたが、家名で隣国の王族だということはお分かりになるかと思いましたが。



「わたくしは、あなた様の婚約者であるユリアナ様との交換留学にてヒンスリー王国の王立学園へ入学いたしました。先に申しました通り、交換留学の申し出はあなた様のお父上である国王陛下直々のことでした――」



 わたくしは、交換留学に至った経緯をお話しいたしました。


 ヒンスリー王国の国王陛下は、大変お人柄の良いお方ですが、政治的手腕には恵まれなかったようです。

 古くから力を持つ貴族や、品行悪くわがままに育ったオーマン様の扱いに頭を悩ませていらっしゃいました。


 兄と対照的に品行良く頭脳明晰な第二王子であるアルフィン様に王位を継がせたかったようですが、第一王子擁立派がこの国の上層部に多数いらっしゃるようなのです。


 愚かな王ほど、扱いやすいものはありませんからね。


 このままオーマン様が王位を継げば、ヒンスリー王国は私利私欲を肥やした古参貴族の傀儡国家となりかねない。そう危惧した国王陛下は、我が国ユータカリアに助けを求めたのです。


 わたくしのお父様である現ユータカリア国王は、ヒンスリー王国の国王の申し出を二つ返事で受けられました。お父様は面白そうなことと、改革が大好きなのです。



 わたくしとユリアナ様の交換留学の目的は大きく二つ。



 一つは、オーマン様の素性調査をし、王位継承に相応しいかを見極めること。同時に、継承権を剥奪する際に反対派を黙らせる材料集めをすることでした。


 そしてもう一つは、長らくオーマン様を支えるために尽力されてきたユリアナ様の救済でした。


 オーマン様が王位継承権を剥奪されたら、第二王子であるアルフィン様が継承権第一位になります。次期王妃としての教育を受けてきたのですから、アルフィン様と婚約を結び直すことが自然であると国王陛下も考えられていらっしゃいました。



 そこに待ったをかけたのがわたくしのお父様です。



 それではあまりにもユリアナ様の人生が縛られすぎていると憂いたのです。そこで、わたくしと交換留学をする形で、ヒンスリー王国から離れた土地で何のしがらみもなく自由に生活できる環境を整えたのです。


 まあ、あの時のお父様は獲物を狩る目をしておりましたから、ユリアナ様の聡明さに目を付けたのでしょうね。


 定期的にユリアナ様とはお手紙を交換しておりますが、どうやらユータカリア王国の第一王子であるわたくしのお兄様と親しくされているようです。

 ふふ、お父様の目論見は成功しそうですね。



「うそ、だろ……」



 簡潔に、オーマン様にもわかるように説明を終えると、オーマン様は力無くその場に崩れ落ちてしまいました。


 知らず知らずのうちに、隣国の王族を捕らえようとしていたのです。さすがに自らの愚かさを痛感しているのでしょう。アルフィン様の指示で衛兵に連れて行かれる時も、大人しくしておりましたから。アリス様は醜く喚いて引き摺られるように会場から連れ出されておりましたが。

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