第2話 わたくしが誰かご存知ないようで
「恐れ入りますが、物証はないのでしょうか? アリス様の証言だけで罪を問われるのは、さすがにいかがなものかと」
「はっ、物証だと? あるに決まっているだろう。アリスの教科書、壊されたペンダント、破かれたドレス、どれもお前がしたことだ!」
色々と陳列され始めましたが、そんなものを示されましてもわたくしの犯行だという証拠にはならないのではないでしょうか? 教科書を破かれたように細工することは造作もありませんし、自作自演の線も考えなくてはならないでしょうに。
会場の皆さまは呆れた様子で傍観を決め込んでいて、オーマン様やアリス様の証言に加わる様子もございません。
この様子だと、目撃者も協力者もいないご様子です。
「お言葉を返すようですが、わたくしがアリス様を虐める理由がございません。その点はいかがお考えでしょうか?」
「アリスを虐める理由がないだと? ふんっ、ユータカリア家とは我が国では聞いたこともないほどの下級な貧乏貴族なのだろう? 貧しいお前は、下級貴族ながら王子に寵愛を受けるアリスに醜い嫉妬をし、あわよくばその場所を取って代わろうと画策していたのだろう!」
「まあっ」
なんということでしょう。
仮にも一国の王子ともあろうお方が、自国の貴族の家名すらろくに覚えていらっしゃらないなんて。「ユータカリア家」がこの国に
会場の皆さまも息を呑んで顔を青くしておりますわ。
絶句するわたくしが反論しないことをいいことに、オーマン様は演説じみたお話を続けられるようです。
「それに、お前はいつも俺に熱い視線を送ってきていたからな。ふん、お高く止まっていても結局は嫉妬に狂うただの女だったというわけだ」
なるほど。確かにわたくしはオーマン様をよく見ておりました。
ええ、だってそれがわたくしの
「なにを笑っている! 自分の置かれている立場がわかっているのか!」
「あら、ついおかしくって。失礼いたしました」
一向に狼狽えず、余裕があるわたくしが気に食わないのでしょう。オーマン様は顔を真っ赤にしてお怒りのご様子です。
「笑っていられるのも今のうちだ。これを見ろ! 先月神殿での奉仕活動の際、お前がアリスを虐めていたと証言する書簡だ! 傷だらけで泣いていたアリスは見ていられなかった、暴力を振るっていたのはヴァネッサだと明記されている。ふふん、聞いて驚くな。これを書いたのは神官長だ!」
「まあっ! その書簡、ちょうだいしても?」
「はあ? つくづく馬鹿なやつめ。何度見てもここに書かれていることに変わりはない! 穴が開くまで読み込むがいい」
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