どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜

水都ミナト@【解体嬢】書籍化進行中

第1話 突然、断罪劇が始まりました

「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」



 ヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、高らかにそう宣言されたのはこの国の第一王子でいらっしゃるオーマン・ヒンスリー様です。

 この国の王族ならではの鮮やかな金髪にエメラルドの瞳、見目麗しい王子様が突然始めた断罪劇に、会場中がざわついております。



「あら、ヴァネッサとは、わたくしのことでしょうか?」



 ヴァネッサ・ユータカリア。

 聞き間違いでなければ、どうやら断罪対象はわたくしのようです。



「ははっ! 自分の名前も確認せねば分からぬのか。とんだ馬鹿女だな」


「はあ……」



 あら、これでも座学の成績はダントツのトップで、いつも悔しそうに地団駄されていたのはあなたですのに。


 余程負けたことが悔しかったのでしょうか?


 私を馬鹿女と罵って満足そうにしていらっしゃいますね。まあ、あなたは惜しくも二位というわけでもなく、成績は中の下といったところなので、目を怒らせてライバル視されましても、ねえ?



「まあ、いいでしょう。それで、わたくしが退学? とおっしゃいましたか? その上で牢に入るなどと……仮にも一国の王子殿下が祝いの場を騒がせてまでおっしゃるのですから、確かな理由があるのでしょうね?」



 それも、外交で国王陛下がお留守のときを見計らっての企てときました。

 さてさて、オーマン様はどのようにわたくしを断罪なさるおつもりかしら?



「はっ、当たり前だろう。証拠は揃っている。いつまでその涼しげな顔をしていられるのか、見物だな。アリス! こちらへ」



 鼻を鳴らしたオーマン様が呼び寄せたのは、子爵令嬢のアリス様でした。ふわふわの桃色の髪を靡かせて、同じく桃色の瞳には涙がいっぱいに溜まっています。


 あらまあ。公的な場で彼女を前に出されるのですねえ。

 あなた様には由緒正しき公爵家に婚約者がいらっしゃるはずですのに。



「お前は俺の愛しいアリスを虐めた! 教科書をボロボロに引き裂いたり、すれ違いざまに肩をぶつけたり、掃除のときにわざと水をかけたり、アリスの悪口を吹聴したのもお前だろう! 全部アリスが涙ながらに訴えてくれたぞ!」


「えーん、オーマンさまぁ」



 ウルウル瞳を潤ませて、オーマン様に縋るアリス様。

 会場のあちこちからは「チッ」とレディにあるまじき舌打ちが聞こえてまいります。


 それもそのはず、アリス様は随分とお尻が軽くていらっしゃるようで、オータム様以外にも上級貴族を中心に色仕掛けをすることで有名なお方です。婚約者がアリス様に美味しく召し上がられたご令嬢がこの学園にはたくさんいらっしゃるようですよ。


 婚約者を寝取られた皆さんがアリス様につらく当たる光景はよく目にしました。

 その度に、そのようなことをしてはあなたがたの品位が下がりますわ、と皆さんを嗜めて被害者の会と称してお茶会を開き、今後の婚約者たちとの関係構築について相談に乗っていたのはわたくしですのに。


 アリス様の醜聞は自業自得と言いますか、身から出た錆と言いますか……わたくしが噂を広めるまでもないのですが。


 むしろ、わたくしを敵視していたのはアリス様ですわ。


 一人の友人もいないアリス様が、学校中の生徒から一目置かれるわたくしを恨めしそうに見ていたことには気づいておりました。アリス様が狙っていた殿方とわたくしが親しげに話していた時は、鬼のような形相をしていらっしゃいましたわね。


 おそらくこの茶番は、成績優秀で鼻につく優等生であるわたくしを排除したいオーマン様と、わたくしをよく思っていないアリス様のお二人で企てたことなのでしょう。気に入らなければ排除する、なんと愚かなことでしょう。

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