あの時勇気を出して言ってたらなにか変わってたのかな

zol

完結

僕は高校時代3年間片思いをしていた女の子がいた。その子の事を好きになったのは高一の春。

入学したてで緊張していた僕に声を掛けてくれた彼女は、まるで天使みたいだった。顔は可愛らしく、愛想も良くてあっという間にクラスの人気者になった。それに比べて僕は、カースト最下層にいる空気のような存在だ。こんな僕に話しかけてくれる彼女は、ほんとに優しいのだろう。そんな子を僕は好きになってしまった。僕如きが好きになっちゃいけない人なのに。叶わないはずの恋だと分かっているけど、朝「おはよう」と言われただけで舞い上がってもっともっと好きになってしまう。高2の頃皆が部活で教室から居なくなった時、放課後のクラスには僕とその彼女だけだった。小説を読んでいると「それ何読んでるの?」と彼女が声をかけてきた。いきなりのことに驚きあたふたしたのを今でも覚えている。「有川浩のクジラの彼」「見たことないけどタイトルから面白そうだね」「小説読んだりする?」「ん一時々かなー」と彼女はほんとか嘘か分からないことを言う。

「成海(なるみ)君この時間よく教室で本よんでいるよね」「なんか皆んながいない教室のこの空気感が落ち着くんだよね」「わかるかも。私もこの時間の誰も居なくなった教室好きなんだよね」「一緒だね」僕に微笑んで話す彼女はいつもより何割にも増して可愛い。その日からは、週に何日かこの時間だけ彼女と2人きりで放課後残るようになった。彼女と過ごす放課後の時間が何よりも楽しくて話せるのが嬉しかった。彼女が実は犬が怖いことや怒りっぽいところ、今まで知らなかった彼女の事を沢山知れて幸せだった。高3になりお互い違うクラスになってからは、前よりも話す時間が減り距離が遠くなったような気がした。「最近全然話せてないよね」LINEでそう言ってみる。15分後に返信が返ってきた。「また前みたいに放課後居れたらね」彼女がそんな思ってくれてると知り嬉しかった。続けて彼女が「私さ彼氏出来たんだよね」突然の事に「え、」と部屋で1人声が漏れた。メッセージが届いた瞬間僕の頭は、壊れたPCみたいにフリーズしていた。確かにそうだよね、顔も可愛くて優しくて人気者の彼女がモテないわけないじゃないか。「そうなんだ」「良かったね」これを送る事が今僕に出来る精一杯のことだった。「ありがとう」「でも私ね、君の事がずっと好きだったんだよ」そう返信が来た時初めて彼女に電話を掛けてしまった。彼女の声は震えていて泣いているように聞こえた。「高1の初めから君の事が好きだったんだよ」「君は鈍感だから気付いてなかったかもしれないけど」彼女が僕の事を好きだなんて夢にも思ってなかった。「気づけなくてごめん」「今更だけどさ、声を掛けてもらったあの日から今日まで僕はずっと好きだった」勝手に涙が溢れてきた。泣いてることをバレたくない僕は必死に隠したつもりだったけど、バレていたと思う。「私さ放課後2人だけで残れるあの時間がたまらなく大好きで、その事だけを楽しみに学校に行ってたんだよ」「君は1人でずっと小説を読んでいるから、最初話しかけるの凄く緊張したの」彼女が泣いているのが良く分かるくらい声がいつもと違った。今更なんてもう遅いよな。僕は臆病だ。僕の事を好きだなんて思わないと思い込んでいた。「そんな事思ってくれてるって思わなくて」「僕が勇気を出して言ってれば」「あの時、自分の気持ちを伝えれていたらと考えただけで胸が張り裂けそうだよ」僕は泣き過ぎて苦しかったがやっとのことで話した。彼女が悲しい声色で話す。「最初から両思いだったんだね」「お互い不器用でちゃんと伝える事ができなかっただけで」「ありがとう」「好きって伝えてくれて、とっても嬉しい」今まで聞いたこともないような悲しい声だった。「ばいばい」そう言って電話は切れた。その日僕は涙が止まらなくてずっと泣いていた。今思うと後悔しかない。次の日は学校に行けなくて休んだ。彼女と話した日々の事を思い出しては泣いて、疲れて寝て起きて思い出してまた泣いて、ご飯もろくに食べれなかった。卒業式の日彼女と目が合って、彼女は笑顔で僕に手を振ったが、僕はまた泣いてしまいそうで上手く笑顔で手を振れなかった。今考えると自分の人生において大きな恋愛をしたのだと思う。風の噂で聞いたが、彼女は今年の春に結婚するらしい。僕は春になるとあの時の事を思い出す。僕の初恋の人が君で良かった。幸せになってね。

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