第44話 心が期待でふるえている
見るだけ…。
確かめるだけ…。
二人しかいない部屋のベットで、アルギルは眠っているロゼリアを眺めている。
もともと、誰かを部屋に入れるつもりはなかったのだ。リンクスも戻ってきたら追い出してやるつもりでいた。
「なにで押さえている? せめて、この部屋で寝ている間は…緩めてもいいだろう?」
目覚めたロゼリアが驚くかもしれない…。うろたえて…真っ赤になって…怒るかもしれない。だが、そんなことさえ些細なことだと思えてしまう。
着ていたチェニックの紐をそっとほどく。すると真っ白な肌が現れた。柔らかそうな感触に思わず鎖骨のラインを撫でると、閉じていた唇から誘うように息がもれでる。
すい寄せられたアルギルが、そっと唇を重ねた。だが、ロゼリアが起きる気配はない。
それなら…と、腰まで服をはだけさせたが思わずピタリと手が止まる。柔らかな胸を押さえつけている布は、アルギルが考えていたよりずっときつく巻かれていたのだ。
食い込んでいる…と言ってもいい布地をほどこうと、胸と布の間に指先を這わせる。
だが、顔をしかめたアルギルは、もう一度自問してみた。
「…っ」
しかし、どんなに理性が正論を並べても、無防備なロゼリアを目の前にして、アルギルの欲情が抑えられるわけがない。実際は、触れずにはいられないほど…心が期待でふるえていた。
このままでは…という言い訳を理由に、ゆっくり…そっと…指先を動かしていった。
緩んだ布から…みずみずしくて大きな蕾が二つ、ふるんとこぼれでる。目を細めたアルギルの喉が知らず知らずのうちにゴクリ…と動いていた。落ち着こうとした深呼吸は、我ながら歓喜のようなため息だ。
「ちっ」
己のぎこち無い手つきが情けなく、つい鋭い舌打ちがでてしまう。
しかし、慎重にゆるんだ布をほどいていくと、美しい肌はうっ血していて、ところどころ擦れて血も滲んでいるのだ。さらに、なにも手当しないで、再度布を巻き付けたのだろう。滲んだ血が布に張り付き、傷口からはがれない。
「っ。…こんなになるまで」
口で言っているわりには、柔らかくて完熟ポポーのように熟れた膨らみから目を離せないでいるのだ。
腰は驚くほど細く、よくこんな細腰であの剣技がうまれるのかと感心してしまう。
傷口に張り付いた布と胸を、そっと指の腹で触れてみる。だが、見事な弾力がアルギルの指先を押し返すだけで布が肌から離れないのだ。無理に剥がすとかなり痛みが伴うだろう。これでは、アルギルには手に負えない。
パチ…パチ…と、暖炉で爆ぜる炎がアルギルの精神を追い立てていた。穏やかな夢を見ているとわかるロゼリアに救われる。痛みを感じず、心も悲鳴を上げないで眠れているのだろう。
ロゼリアから視線を引き剥がしたアルギルは、毛布を優しくかけた。思わず吐き出した大きなため息は、戦以上の忍耐を使っていたからかもしれない
情けないな…。
ロゼリアを手放したくない。だが、明日にはルーゼル城からロゼリアを出す。そうしないと、ルーゼルの覇権争いに巻き込まれ、またロゼリアを危険にしてしまうからだ。
かといって、ロゼリアを戦の最前線で戦わせるなど、できるわけがない。
無茶なことだけは、しないでほしい…。
届くわけはないとわかっていながら、心が呟く。もう、何も失いたくない…と願うのに、締め付けられる不安をこの先ずっと抱えながら生きていかなければならないのだ。
恋とは…ずいぶんと面倒な感情だな。
目を離さないで一心に守っても、きっとロゼリアは喜ばない。アルギルの腕をすり抜け、仲間や民を守るため、愛馬にまたがり剣を片手にかけていくのだろう。
立ち上がったアルギルは、暖炉でゆらぐ炎の前で身体の熱を誤魔化す。
扉を開け、部屋の外で見張っていた衛兵に声をかけたのは、他に手立てがなかったからだった。
「医療室にいる薬草師長を呼んでくれ」
「はっ。すぐにでしょうか?」
「…すぐにだ。それから、ジョナサンの所に行った女騎士に、部屋へ戻るようにと伝えろ」
二人の衛兵が揃って顔を見合わせた。もしや、なにかあったのでは…と考えるのは当然だ。護衛についていながら、王子達になにかあれば、自分達の首がとぶ。
「はっ。すぐお呼びしてまいります!」
ムチでうたれたよう、全力で駆け出していく衛兵の背中を、恨めしそうに見送るアルギルは、再び大きなため息を吐き出していた。
そうして部屋に戻ったシャルネが豪剣に手をかけた時には、さすがに背筋に冷たいものを感じた。だが、続いて来た医療班と薬草師長に、シャルネの感心はロゼリアに向けられる。
ほっとしたアルギルは、数人の部下を扉の外に見張らせ、多少の罪悪感とやるせない思いを胸に抱きながら、ジョナサンのいる作戦会議に戻ったのだった。
* * * * *
次回 第45話『男の恋心は独占欲』
第二章終了まで残り4話!
どうぞよろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます