第3話:お肉の味は?

「本当に…本当にありがとうございました!あなたがいなければ私は死んでいたかもしれません。」

彼女は震えながら深々とお礼をした。


「え、えと、ダンジョン内は助け合いだから気にしないでね?」

そう伝えるも、中々顔を上げてくれなくて困ってしまう。


改めて彼女を見るも服はボロボロ、荷物もどこかで落としてしまったのか何も持ってない。

滅茶苦茶震えているし、この状態でじゃあバイバイっていう選択は、ぐう畜すぎて普段ぐう畜な生活を送っている俺には流石にできない。


「とりあえずこれでも羽織ってください。」

ここでサッと俺の上着を渡せれば恰好着くのだが、残念ながら半袖一枚の俺。

上半身裸になるとアカウントがBANされてしまう可能性があるので、何かあった時ようにリュックに詰め込んでいた防寒シートを取り出して彼女に渡した。


「えっ?あ、ありがとうございます…」

防寒シートを受け受け取り、羽織ってもらったところで話を進めることにした。


「俺、ダンジョン飯の配信してるかずやんって言います。えーと…大丈夫ですか?」

「は、はい…大丈夫です。落ち着いてきました。姫ちゃんねるで配信している姫路って言います。ほんとうに…死ぬかもって思いました。」

俺より年下に見える彼女は、緊張の糸が切れたのか目から涙があふれ零れ落ち地面を濡らす。

「ありがとうございます!ほんとうに…もう駄目かもって…」

急に泣き出したものだから俺は俺でてんぱってしまう。

年齢=彼女いない歴の俺はこういう場合はどう対処したらよいのかわからず、あたふたしていたところでアニメのワンシーンを思い出すことに成功、とりあえず頭をポンポンと優しく叩いてやることにした。

…やってから思ったんだが、セクハラとかで訴えられない…よな?


特にリアクションが返ってくるわけでもなく、この空気に限界を感じた俺は、ビールを一本取り出しグイっとあおる。

「え?」

それを見た彼女はポカんとした表情だ。

口からも声が漏れ出てしまっている。


「いやー、ごめんね。こういう空気苦手でさ。この先にミノタウロスいるからサクッと狩って地上まで送るよー。ついでに飯でも食べない?おいしい物食べると元気になるよ!」

空回りしているのは自覚しているが、空気を換えようときょどりつつまくし立てた。

気の利いた言葉?知らんよ。無理だよ。


「ぷっ、あはは。お願いします。」

呆気にとられたのか、目じりに涙を浮かべつつも、ようやく笑った彼女は魅力的だった。




「えと…これって…食べられるんですか?」

先ほどの笑顔から一転、彼女の頬は引きつっていた。


「メッチャ…くちゃ美味ですよ!脂身少なくて赤身多めのバランスといい、赤身も噛みきるときは柔らかくてその後はほどよく硬い肉質、噛んだらジュワっとあふれ出る肉汁に溺れること間違いなし!一度食べるともう戻れなくなりますよ?」

美味しいものを目にして、つい口調が早くなってしまった…反省。


年齢をしっかり確認し、彼女にもビールを渡して一緒に乾杯、恐る恐る一口口に含んだ彼女の目がカッと見開かれる。

「えっ、めっちゃおいしいです!牛肉と比べたら可哀そうなぐらい味が濃厚…こんなお肉食べたことない…」

恍惚とした顔に、油でぬれた唇をなめるしぐさはすごくエロい。


思ったことを顔に出さないよう、急いでビールを流し込んだ。

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