第2話 苦い気持ち
『僕、気になる女性がいてさ、近々デートに誘おうと思うんだ』
あぁ、まただ。この夢。
郁はベッドからゆっくりと上体を起こした。
ぼーっとしたまま外に目をやると、カーテンの隙間から薄青の光が漏れている。
2月はまだ底冷えして、窓からじわじわと冷気が入ってくる。
午前6時10分、アラームよりも早く目覚めてしまった。
郁はこわばる身体を両手で抱きしめた。ずっと身体中がどくどくと波打っている。
昨晩は早く床についたのに、寝た気がしない。はぁ、なんだか損した気分だ。
8年前のことなのに、こうやっていまだに思い出す。
世の中ではありふれたこと、とうの昔に過ぎたことじゃないか。
(この夢から目覚めるたびに、苦い気持ちで一日を迎えている気がする……)
そんな気持ちを切り替えようと、郁は眠い目をこすりながら、ミネラルウォーターに手をのばした。
午前7時20分。
テレビの天気予報をみると、最高気温は8℃。今は曇りだが、昼すぎからは雨になりそうだ。
2月のこの時期は、いつも服装に悩む。
郁はブラックコーヒーを飲みながら、ぼんやりとクローゼットを眺め、服装を思案する。
あれこれ考えて、結局はお気に入りの白ニットといつもの紺のテーラードジャケット、細身の黒のテーパードパンツに決めた。
郁は自宅のマンションを出て、早朝のひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込む。
(あ~、寒いや)
少し身を縮こませて、足早に最寄り駅に向かう。
通勤時間は、郁にとって思考の時間でもある。
午前は頭がスッキリしているし、感覚が冴えわたっている気がする。いつもなら。
ふとしたときに、良いアイディアが浮かぶものだ。まぁ、会議中はなかなか良い案が浮かばないけど…
あぁ、でも今日はツイてる。2本早い電車に乗ったから座れる。それも端の席だ。
やっぱり、端の席は落ち着く。
郁はゆっくりと背もたれに身を委ね、ひとつ深呼吸をする。
そうだ。
せっかくだし、懐かしい曲を聴きながら目を瞑っていようか。
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