あの時の答えあわせを

江藤 香琳

第1話 かなわぬ思い

「僕、気になる女性がいてさ、近々デートに誘おうと思うんだ」


その言葉を、伊原郁 (いはら かおる)は、心臓がぎゅっと締め付けられる思いで聞いていた。


全身の血の気が引き、その言葉以外何も聞こえない。


(あぁ、今日は最悪だ…。俺はついてなさすぎる)


なにか言わなければと思い、やっとのことで口を開く。


「いいじゃないか。ラースの誘いなら、断る女性はいないだろ」


「そうかな?だといいんだけど」


なんとか笑顔で言えた。友人として、良い返しじゃないか。あくまで友人として。


いつもなら、ラースの端正な横顔を眺めていたいと思うのに、今日は直視できない。


誰かを思い浮かべて、微笑む顔を見たくない。


ありふれた出来事だが、自分の身に降りかかるとこんなにも辛いのか…


本音をごまかすように握りしめた両手に、さらに力が入る。


親しくならなきゃよかった。ラースを好きにならなきゃよかった。


郁はそんなことを思いながら、靴でこつんと小石を蹴った。

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