一本道
なぜ私たちはあのような喧嘩をしてしまったのか、ふと頭に浮かんでは道に迷っているという事実が反省する暇を埋める。しかしまあ、どうせすぐには解決できない問題にうじうじ悩むことに苦しむくらいなら、あながち道に迷うのも悪くないと思ってしまった。
ゆらゆらと曲がりくねる小路を進む。この小路には入ってからというもの、不思議と足取りが軽い。懐かしいような、初めて見るような景色の中を進むのは、幼児期の淡い記憶を辿っているようで、存外心地の良いものだった。
そういえば、子供のころにも祖母の家に家族で帰省した際にこのような小路に迷い込んだことがあるような気がする。6歳にも満たない幼児が人混みでもないただの小路でどうして迷子になったのかは思い出せないが、その時に抱いた大きな不安と恐怖の記憶がひとつ頭に横切り、そんなこともあったな、と懐かしく思った。その記憶のラストシーンは、顔をべちゃべちゃに濡らした母と祖母の顔だ。それを見たときに子供ながらに困惑したことも思い出した。薄情な子供である。我ながら子供のころの自分を可笑しく思いつつも、一発説教をかましてやりたくなった。しかし大人になった今、子供のころと同じような状況にいるわけだが、自分を探してくれる人はもういないのだと思うともの悲しくなってくる。彼女は泣いてくれるだろうか。喧嘩をした勢いで家を飛び出した結果、大の大人が道に迷ってしまったなんて言ったらきっと笑われるだろう。こんなことでも笑ってくれるのなら少しばかりでもマシになるのだけれど。
そんなことを考えていて気が付かなかったが、小路を歩いているうちにひとつ違和感を覚えた。終わりが見えない。終わりが見えないどころか歩くほどに出口から遠ざかっているようにも思える。曲がりくねっているせいで正確には分からないが、これほど歩けば駅前から続く大通りには出そうなものだ。向かっている方向が違うのかと思い、次の曲がり角で曲がってみようとしてみるも、どの曲がり角も私道のようで、立ち入り禁止の看板や進入禁止の標識が建っている。表示を無視して曲がってみようかとも考えたが、私道なら大方この先は行き止まりだろうと思うと、そんな思考も踵を返して脳みその奥へと引っ込んでいった。
気づけばもう、かすかに朱く照らされていた入道雲よりも街灯の明かりのほうが目立つ。だんだんと暗くなる空とえんえんと続く小路に最早懐かしさに包まれた温かみはなく、浸透圧のように私の焦燥が体外へ滲み出していくのをしていくのを肌で感じた。
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