第16話 初めての客

 私は、上級ダンジョンに潜ることを暫く諦めて、中級ダンジョンに潜って、ランクアップを狙うことにした。


 今日も店は開けておくことにした。その為、私は、転移魔法で店まで移動して、店のドアノブに「営業中」と書かれた札をぶら下げて、店を出た。


 私が、中級ダンジョンに潜って、薬草を採取しながら、魔物を狩っていた時だった。


 「アラームがなった。えーと、どれだったかな、あぁ、これだわ」


 「じゃまするよ」


 「はい、少しお待ちください」


 私は、手鏡越しに返事をした。それと同時に、転移魔法で店に移動した。


 1階の店に行くと、見慣れた顔があった。それは、冒険者のメイソンだった。


 「今日は、どうしたの」


 「水臭いな、店を開いたなら、教えてくれよ」


 「あれ、言わなかったかしら」


 「お前が、初心者だってことだけだよ。聞いたのは。 ところで、どんなものを売っているんだ」


 「はい、今は、この棚にある物だけなんだ。欲しい物、ある?」


 私は、メイソンに棚を指さして、教えた。


 「そうだな。今日は、上級ダンジョンに潜るんだ。だから、ポーションを貰おうか」


 「メイソンは、魔法は使えるの?」


 「いいや、使えないよ。なぜだい」


 「うん、青か、赤か、どちらかなぁって。魔法を使わないのなら、赤のポーションでいいよね」


 「そうだな。それは、そこに書いてある『赤いポーション』の事か?」


 「そうだよ。そこに書いているように、1回で、HP100回復だよ」


 「もう少し、上等な物はないか? 1000ぐらいは、回復したいから」


 「ちょっと待ってね。これでは、どうかな?」


 私は、アイテムボックスから、赤のポーション(特級)を1本テーブルの上に出した。


 「おい、これって、特級じゃないか」


 「そうだよ。これなら、HPの総量の50%は回復できるよ。どうかな?」


 「そりゃ、欲しいよ。でも、高いんじゃないか?」


 「普通なら、金貨10枚だけど、初めてのお客だから、金貨2枚でいいよ」


 「えっ、そんなに安くていいのか」


 「うん、今後も、御贔屓にね。それじゃ、何本いる? 手元には、20本あるけど」


 「いや、1本でいいよ。必要になったら、また、来るよ。その時も金貨2枚でいいのか?」


 「いいわよ。でも、メイソンだけだよ」


 メイソンは、金貨2枚を机の上に出した。私は、赤のポーション(特級)を一本包んであげた。

 

 「はい、毎度ありがとうございます」


 「良い買い物をしたよ。ありがとう。また、来るよ」


 メイソンが、出て行ったので、私は、また、中級ダンジョンに潜ろうと思ったが、これでは、ゆっくり、狩りができない。


 「どうしようかな。遠隔投影では、店と冒険者の掛け持ちは難しいね」


 私は、店を閉めて。ドアノブの札を「休業中」に変えて、商業ギルドに向かった。


 「リンダ姉さん、今、時間ある?」


 「もちろんよ。テラなら、最優先で、話を聞くよ」


 「ありがとう。店の事で、相談したいんだけど」


 「何か、問題でもあったの?」


 「店を開いて、ダンジョンに潜りたい。そんなこと、できる?」


 「簡単よ。1つは、従業員を雇うということね。もう一つは、無人販売にするってことね」


 相変わらず、リンダの耳は、可愛い。どうしても、見とれてしまう。それに、あの尻尾、ふさふさの尻尾。見とれていて、うっかり、聞き逃すところだった。


 「えっ、無人販売って、それ、どういうこと?」


 「あれ? 知らなかったの。説明するのを忘れていたみたい」


 「これは、売る物が決まっていないとだめだけど」


 「うん。売るもの決まっているから、大丈夫よ」


 「それなら、無人販売用の機械を置くだけよ。レンタル料は必要だけど、便利よ」


 「それ、使いたい。いくらかかるの?」


 「保証金に金貨20枚で、あと、レンタル料が月金貨10枚よ。ちょっと、高いけどね」


 「いいえ、安いよ。1台で、何種類売れるの」


 「1台で、4種類だよ。それでもいいの」


 「そうだね。2台お願いします」


 「今すぐいるの? 配達なら、頼めるよ」


 「今すぐ、貰います。自分で運びます」


 「それじゃ、持ってきてもらうね。少し、待っていてね」


 暫くして、リンダが男の人達とやって来た。冷蔵庫ぐらいの大きさの機械が2台運ばれてきた。


 リンダが、テーブルの上に、契約用紙を出した。

 

 「これに、サインしてね。それから、何カ月借りる?」


 「延長は、出来る?」

 

 「もちろん、出来るよ。その時は、保証金はいらないよ。それに、レンタルを止めるときは、保証金は、戻ってくるよ。ただし、レンタル料は、月単位での計算になるよ。注意してね」


 「わかった。それなら、2カ月借りる」


 「それじゃ、金貨60枚になります」

 

 私は、商業IDを渡して、清算してもらった。それから、アイテムボックスに、2台の機械を入れた。


 簡単な説明を男の人から聞いた。それから、男の人に商業IDを渡して、管理者登録をしてもらった。その機械の設定は、少し面倒だった。一商品ごとに行う必要があった。つまり、内部的には、4台の機械をまとめただけみたいだ。


 2台の機械を無事設定できたので、これで、気軽にダンジョンに潜れそうだ。

 

 私は、中級ダンジョンに転移魔法で移動して、薬草の収集を中心にしながら、魔物を狩って行った。

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