第10話 賢者の道

 ついに、賢者サビオの魂を地下牢から出すことが出来た。


 賢者サビオは、新しい身体を土魔法で創った。一見すると、12才の少年のようだ。

 出来栄えは、私とは比べ物にならない。細部にわたって、本当の人間のようだ。

 次に、賢者サビオは、闇魔法を使って、土人形(ゴーレム)全体をバリアで囲み、敵からの攻撃に対処できるように、結界を張った。また、触られたときに違和感がないように、結界の上から、スライムを薄く伸ばしたような物を作り、身体全体を覆っていった。最後に、魔法陣で刻印をして、この新しい、少年の身体に入り込んだ。


 「よし、これで完成だ」


 賢者サビオは、本当の少年のように、喜び、走り回った。


 暫くすると、今の身体を確認するかのように、飛び跳ねる、転がる、ダッシュ、宙返り、・・・。


 またもや、私は、賢者サビオが納得するまで、数時間待たされてしまった。まあ、1000年ぶりだからね。仕方ないか。


 ようやく、落ち着いたのか、賢者サビオは、私の所にやって来た。

 

 「待たせたな。望みを言ってみろ。出来ることなら、何でも望みは叶える」


 「これも、何かの縁です。この世界で生きてみたいです」


 「誰かの身体に転生するか?」


 私は、賢者サビオに聞かれて、考えてしまった。元の世界では、私は、死んでいる。もともと、この世界での生はない。それなのに、誰かの生を奪うような転生は、嫌だな。でも、消えてなくなるのも、嫌だな。


 「賢者サビオのようになりたいです」


 「なんと、私の様になりたいと。だが、私はバカだよ。簡単に騙されて、1000年もの間地下牢に閉じ込められた。そんな、大馬鹿だよ。いいのか?」


 「えぇっ、バカになりたいって言っていませんよ」


 「私の様になりたいと、言ったではないか。わしの聞き間違いか?」


 「確かに、『賢者サビオのようになりたいです。』と言いましたよ。でも、それは、バカになりたいということではないのです。賢者になりたいだけです」


 「そうか、賢者になりたいか。でも、大変じゃよ」


 「頑張ります」


 「賢者は、貴様自身の努力でなるものだ。わしが与えるものではない。しかし、貴様が賢者に成れる様に導くことはできる。なにせ、わし自身が賢者だからな。わしのように、生きていけばいいだけだ」


 「はい、お願いいたします。指導してください」


 「それで、身体は、どうする。誰かの身体を奪うか?」


 「いいえ、それは嫌です。賢者サビオのような身体が欲しいです」


 「なんと、わしの身体が欲しいと、うーん。どうしようかぁ」


 「賢者サビオ、何を考えているのですか? 何か、違うような………」


 「わしの身体が欲しいのじゃないのか? 貴様になら、あげてもいいが」


 「賢者サビオのような精巧な本当の人間のような身体が欲しいのです。決して、今の賢者サビオの身体そのものではありません。新しく、作って欲しいのです」


 「何じゃ、そんなことか、いいぞ、すぐに始めよう」


 私は、色々と賢者サビオに要望を出して、10才ぐらいの人間族の少女の身体を作ってもらった。


 「これで、どうじゃ」


 「目は、ブルーにしてください。それから、髪の毛はちょっとウェーブを掛けて、シルバーがいいです」


 「注文が多いな。よし、よし、何でも聞いてやろう」


 ついに、完成した。私が、異世界で憧れていた少女の身体だ。フィギュアを作っているようで、本当に楽しい。


 「ありがとうございました」


 「希望通りになったかな。それで、これからどうする?」


 「賢者サビオは、どうするのですか?」


 「わしか? わしは、この新しい世界を見て回るつもりだよ。1000年も経ったので、全くの異世界じゃよ。思念伝達はいつでもできるぞ。困ったら、いつでも、頼れ」


 「分かりました。私は、賢者に成れるように、努力していきたいです」


 「そうか、達者でな。いつでも、頼れよ」


 「はい、ありがとうございました」


 「いいや、こちらこそ、ありがとう」


 私は、賢者サビオと別れて、賢者の道を歩むことにした。

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