第9話 地下牢からの脱出
賢者サビオを地下牢から、早く出してあげたい。しかし、分厚い金属で囲まれており、今の私の力では、傷すらつけることが出来ない。
誰かに助けて貰うにも、今の私は、
金属なら、酸で腐食するのでは? 何か、強い酸が作れないのかな?
賢者サビオに教えて貰うことにした。
「賢者サビオ、聞こえますか?」
私は思念伝達で、賢者サビオを呼び出した。
「久しいな、どうした」
私のレベルが上がったおかげで、思念伝達もクリアになった。賢者サビオの声がはっきりと聞こえて来た。
「金属を腐食させる、強い酸を作りたいのです。作り方を教えてください」
「そうだな、色々あるが、塩酸が扱いやすいか。
材料は、塩と水だけだ」
「それなら、すぐに手に入ります」
「そうだな。材料はすぐに手に入るが、作った後が問題だ」
「というと、どうしてですか?」
「塩酸は劇薬だから、手に触れると、火傷をしてしまう。
だから、保管に注意が必要だ。
それに、今回は、濃度をあげるので、更に危険だ」
「わかりました。注意して扱います」
「そろそろ、錬金術用の道具を揃える時期かな。
塩酸を作る前に、道具屋で、錬金術用の道具を一揃い購入しなさい。
決して、安い道具を買わないように、いいか」
「はい、わかりました」
私は、街の道具屋を探した。賢者サビオの忠告どおり、高級な店を見つけ、入っていった。
「いらしゃいませ。何か、お探しでしょうか」
店員が、素早く駆け寄って来た。しかし、忙しく感じさせない、自然な動きだ。
「錬金術用の道具を一揃い購入したいの」
「はい、わかりました。こちらへどうぞ」
私は、店員の後について移動し、一つの棚の前に来た。
「こちらの棚にあるのが、錬金術用の道具になります。
色々ありますので、ゆっくり、見ていってください」
棚の中には、見たことのない道具が並べられていた。茶道で使う茶釜のような物や理科の実験で使うフラスコのような物など、種類の多さに圧倒されてしまった。
「錬金術用の道具を購入するのは、初めてなので、何が良いのか、わかりません。
お薦めは、どれですか?」
「そうですね。初心者用を考えておられますか? それとも、一生物をお考えですか?」
「取り敢えず、最高級の物を考えています」
「えぇっ、最高級ですか? すごい金額ですよ。失礼出すが、予算の方は大丈夫ですか?」
「よく分からないです。いくらぐらいしますか?」
「普通の物で一揃い購入すると金貨100枚ぐらいです。
上級者用ですと、金貨500枚ぐらいです。
高級な物ですと、金貨1000枚ぐらいです。
最高級になりますと、金貨1万枚以上ですね」
「そんなにするのですか?」
「相場で、それぐらいです」
想定外の金額を告げられて、頭の中が真っ白になってしまった。もう、何を言ったらいいのかすら、分からない。
「ちょっと、出直してきます」
漸く、口に出せた言葉がこれだった。私は、一旦店を出て、賢者サビオに思念伝達で、報告した。
「とてもじゃないですが、買えません」
「なんと、お金を持っていなかったのか」
「持っていますよ。でも、金貨300枚程度です。
1万枚なんて、とてもじゃないけど、無理です」
「そうか、まだ、取引を始めたばかりだったな。少し、感覚がずれて居った。すまぬ」
「では、どうします?」
「そうじゃな、普通の物を購入せよ。高級な物は、もっと、儲けてからじゃな」
早速、私は店に戻って、普通の錬金術用の道具を一式購入した。それと、他の店で、塩を購入した。私は、購入した物を持って、一旦地下牢の前に戻った。
「賢者サビオ、戻ってきました」
私は、地下牢の壁を叩きながら、賢者サビオに声を掛けた。
「それでは、まず、工房を造ろうか。土魔法のレベルは10以上か?」
「はい、今、14になっています」
「それなら、大丈夫だな」
賢者サビオの指示に従って、地下牢の前の土の壁を土魔法で、崩していった。
小学校の体育館ほどの空間を造り、そこに理科の実験室程度の広さの部屋を複数作っていった。
部屋を4つ造り、倉庫を2つ造った。次に、壁や天井や床を土魔法で、強化していった。
これで、少しぐらいの地震では潰れることはないだろう。
1つの部屋を工房として使える様に、テーブル・椅子・机・棚などを土魔法で創っていった。
それから、賢者サビオに言われたように、部屋全体が見える位置の壁に鏡を作って、埋め込んだ。
更に、言われた通りの魔法陣を鏡に刻印した。それから、地下牢の中に魂の状態になって、移動した。
地下牢の中に入ってから、まず、親指程度の小さな
地下牢の中は、以前外壁の魔法陣を壊してから、十分なマナがある。だから、私は、普通に魔法が使える。賢者サビオは、未だにだめだが。
片方の
すると、賢者サビオの魂が、私の刻印した魔法陣に吸い込まれ、
「うぉー、動けるぞ。よくやった。私の身体が、………」
「賢者サビオ、よかったですね」
1000年ぶりの身体に興奮して、賢者サビオは、狭い部屋の中を走り回っている。私は、気が済むまで、好きにさせておいた。
1時間が経った。
2時間が経った。
「賢者サビオ、いい加減にしてください」
「おぉ、すまなかった。でも、1000年ぶりだぞ。少しは多めに見ろ」
「分かっているのですが、さすがに2時間は、長いですよ」
「そうだな。すまん、すまん」
賢者サビオは、ようやく落ち着いたようだ。それでは、次の作業に取り掛かろう。
「先ほどの工房で作った鏡と同じものをこの壁に作れ」
「はい、ここですね」
土魔法と光魔法で壁に鏡を埋め込んだ。また、同じ魔法陣も刻印しておいた。
「よろしい、これで、工房の鏡とこの地下室の鏡が繋がった。
ほれ、見て見なさい。工房の中が見えるだろう」
「はい、見えます」
「私が、ここで指示を出すから、工房で作っていきなさい」
私は、また、魂だけになって、地下室を抜け出してから、工房の
鏡を通して、指示された通りに、錬金術用の道具を使って、塩酸を作った。更に、出来上がった塩酸を濃縮して、強塩酸にした。
出来上がった強塩酸を地下牢の金属の壁に降りかけた。すると、降りかけた場所から、白い煙が舞い上がった。強塩酸と金属が反応しているようだ。
白い煙が消えてから、金属の壁を見ると、少し凹んだようになっていた。
初めて、金属の壁に傷をつけることが出来た。私は、同じ場所に何度も強塩酸を降りかけた。
先ほど作った強塩酸がなくなると、再度、作り直しては、金属の壁に降りかけるということを繰り返した。何度も、何度も、繰り返した。
少しずつ凹みは広がり、また、深くなっていったが、まだ、穴が開かない。これだけ繰り返しても、僅か1cmほどしか掘れていなかった。
私達の時間はいくらでもあるので、気長に繰り返すことにした。
1週間ぐらい経過して、ようやく金属の壁に穴が開いた。更に、繰り返した。
ついに、拳大まで、金属の壁に穴を開けることが出来た。
私は、親指大の
地下牢の中で、親指大の
賢者サビオは、まだ、魔法が使えない。そこで、私が、賢者サビオの親指大の
やっと、賢者サビオの魂を外界に出すことに成功した。
私達は、喜んで、飛び回った。時間が、掛かったがやっと、目標の1つをクリアできた。
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