第7-8話 商業都市ブューラナ
商業都市ブューラナは、5mほどの高さの石垣に囲まれた街で、入り口の門には警備兵が何人も立っていた。
「街に入りたいのですが?」
と警備兵に聞くと、
「街での目的は何かな?」
と聞かれたので、少し考えてから、
「アイテムの販売です」
と答えた。
「君は冒険者のようだが、商売をするつもりか」
「ビュワーセ村で冒険者をしていたのですが、あまり強くないので、魔物の討伐では食べていけません。そこで、この街で商業ギルドに登録して、制作したアイテムを売りたいと思っています。
これが、私が作ったアイテムです」
警備兵にアイテムボックスから赤のポーションを1本出して見せた。
「なるほど。その小さな体では、冒険者は厳しいだろうな。
まず、IDを見せてくれるかな」
私は、冒険者IDを警備兵に渡した。
「よし。通行料は金貨1枚だ。払えるか」
冒険者IDを受け取り、金貨1枚を渡した。
街の中に入った私は、まず、商業ギルドを探した。
門の所に案内図があり、商業ギルドの場所はすぐに分かった。
「すみません。商業ギルドに登録したいのですが、どうしたらいいですか?」
商業ギルドの受付台は、受付の女性の腰ほどしかなく、踏み台を使わなくても、受付が出来た。
たぶん、ドワーフも来るから、低くしているのだろう。
「何かIDは持っていますか?」
と、受付の女性に聞かれたので、
「はい。冒険者IDを持っています。これです」
と、冒険者IDを見せた。受付の女性は、表示された内容を簡単に確認して、
「結構です。登録料が必要ですが、大丈夫ですか?
金貨40枚になります」
「えっ。そんなに高額なのですか?」
少し驚いて、聞き直してしまった。
「はい。冒険者ギルドとは違って、商品に対する保証金も必要なので、高額になっています。
ただし、商人IDを返却するときは、保証金に相当する金貨20枚はお返しします」
と、丁寧に説明してもらった。
「わかりました。今、手元には、金貨16枚しかないので、登録は後日にします。
登録しないとアイテムを売ることは出来ないのですか?」
と聞くと、
「いいえ、品質が簡単に確認できるアイテムは引き取ることが出来ます。
例えば、ポーションや薬草は、いつでも受け付けることができますよ。
あなたが持っているアイテムボックスも、取り扱うことができます」
と教えて貰った。
アイテムボックスは、簡単に作ることができるので、一旦、商業ギルドを出て、人の目を避けて、すばやくアイテムボックスを5個作った。そして、土魔法で、硬化し、性能を高めた。
「すみません。アイテムボックスを持ってきました」
と、受付の女性に声をかけると、
「えっ。どこで見つけたのですか?」
と驚かれた。アイテムボックスは、通常制作することができず、特殊な魔道具で、魔石を埋め込んでつくるか、ダンジョンでドロップアイテムとして、手に入れるぐらいしかないそうだ。
闇魔法を使える魔法使いは、いないようだ。これは、失敗したかな。
「前にいた、村に来た商人に安く譲ってもらったものです。
取り敢えず商人ギルドに登録したいので、売ります」
「そ、そうですか。ビックリしました。
1度にこんなに沢山の高品質のアイテムボックスを取り扱うことがないので、…。
それでは、アイテムボックス5個で、金貨100枚になります。
商業ギルドの登録料は金貨40枚ですので、残り金貨60枚をIDに入れておきますね」
「わかりました。よろしくお願いします」
私は、冒険者IDを受付の女性に渡した。
「硬化したアイテムボックスは中級なのか。今度は少し注意して売らないといけないな」
と受付の女性に聞こえない声で、呟いた。
「こちらが、登録用紙になります」
渡された登録用紙に必要事項を記入して、係の女性に渡した。
「それでは、こちらの商人IDを受け取ってください。
今後とも、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「よし、これで準備が出来た。まず、光魔法と闇魔法のレベルを上げながら、金貨を稼ぐぞ」
アイテムボックスは、大きな収益を得ることができるが、怪しまれるリスクがあり、これ以上売ることは出来ない。そこで、ポーションを売りながら、何か効率の良いアイテムを探していくことにした。
まずは、ポーションの材料の薬草を得るために、地下牢の前に転送魔法で移動した。
「賢者サビオ、聞こえますか?」
私は思念伝達で、賢者サビオを呼び出した。
「ドウシタ」
私はこれまでの報告をし、何か良いアイテムがないか、聞いてみた。すると、ダンジョンで魔物を狩るのがレベル上げには効率がよい、効率的な金策には、上質なポーションを作成するのが良い、と教えて貰った。これまで、私が制作したポーションは、初級しかなかったので安価であったが、中級・上級・特級と品質が上がるにつれて、高額で取引ができるらしい。
まずは、一つ上の階層で必要な薬草を採取した。
いままで通りの赤の初級ポーションを作った。今回は、そのままにせずに、更に魔力を加えて、品質が上がるように念じた。
すると、赤の初級ポーションは、少し光り、少し濃い赤色に変化した。
「スキル 精錬LV1を習得しました」
私は、もう一度、魔力を加えて、更に品質が上がるように念じた。すると、また、少し光り、更に濃い赤色に変化した。
「スキル 精錬LV2を習得しました」
もう一度。
「スキル 精錬LV3を習得しました」
………
「スキル 精錬LV10を習得しました」
何度も繰り返しているうちに、少しも光らなくなってしまった。赤色の濃さも変化が止まった。
「これが限界かな?
では、鑑定してみよう」
最終的に出来上がった赤のポーションを鑑定してみると、
「赤のポーション LV10 特級です」
と、表示された。
思った品質のポーションが完成したので、同じ方法で特級の赤のポーションを薬草がなくなるまで作っていった。新しい特級の赤のポーションを作るたびに、精錬する回数が減ってきた。最後には、1度の精錬で特級の赤のポーションを作ることが出来た。また、精錬のLVが上がるのに比例して、鑑定のLVも少しだが上昇した。
どれぐらいの価値があるのかを確認するために、商業ギルドへ出来上がった特級の赤のポーションを売りに行った。商業ギルドの受付の女性は、特級の赤のポーションに驚きながら、1本金貨10枚の値を付けてくれた。早速、手持ちの20本を売り、金貨200枚を得た。
十分な資金ができたので、街の鍛冶屋に行き、装備を一新した。これまで、自分で作った簡易な装備が一流冒険者並みの装備に替えることが出来た。
新しい装備で初級のダンジョンに潜ってみた。すると、特にバリアを張ることなくゴブリン程度の攻撃は、装備が無効化してくれた。また、盾をぶつけるだけでゴブリンは、吹き飛んだ。
私は最下層まで、転移魔法で移動した。ここには、以前避けていたワーウルフとワーキャットがいる。まず、群れから離れた場所にいるワーウルフ1匹を狙って弓を放った。たった1本の矢で倒すことが出来た。ワーウルフの牙を採り、魔石を回収した。更にもう一匹、逸れたワーウルフを探した。今度は、弓で倒さずに、新しく購入した盾と剣を試すことにした。恐れていたワーウルフの攻撃を盾で難なく受け止めることが出来た。そして、剣でワーウルフの首をたった一太刀で落とすことが出来た。
「これで大丈夫だね。一気にワーウルフを狩るわ」
私は10匹程度の群れに向かって、攻撃を開始した。念のため、バリアも張っておいた。すると、特に大きな傷を受けることもなく、ワーウルフの群れを一掃することが出来た。転移魔法で冒険者ギルドの裏手に移動し、収集したワーウルフの牙と魔石を売ることにした。
踏み台に乗って、
「ワーウルフを狩ってきたので、引き取って貰えますか」
「こちらに載せてください」
と、いつものトレーを出してきた。
「はい。お願いします。お金はIDに入れてください」
と、冒険者IDを渡し、ワーウルフの牙と魔石をトレーの中に入れた。
「ワーウルフ10匹で、金貨20枚になります。報奨金も入れておきました。
それから、冒険者ランクがDランクに上がっていますよ」
私は、嬉しくなって、ステータスも確認した。
【ステータス】
種族:
職業:無職
LVレベル:35
HP(最大体力量):1500
MP(最大魔力量):4500
魔法:土魔法(LV14)、火魔法(LV10)、水魔法(LV12)、風魔法(LV10)、
光魔法(LV12)、陰魔法(LV12)
スキル:採取(LV14)、鑑定(LV14)、思念伝達(LV15)、探索(LV12)、格闘(LV12)、
弓(LV30)
:毒耐性(LV10)
称号:小鬼英雄殺し
冒険者ギルドの裏手に移動して、今度は街の商業ギルドに転移魔法で移動した。
「ポーションを売りたいのですが、いいですか?」
と受付の女性に声を掛けた。
「商人IDはお持ちですか?」
と、不審な目を向けられた。
「はい。これです」
と言って、商人IDを渡した。
「立派な装備の冒険者なので、商業ギルドの受付に来られて驚きました。
以前にも来られた方ですね。
貴重なアイテムボックスを売られたので、覚えていますよ」
「よろしくお願いします。今日は、この赤のポーションを売りたいのです」
と言って、特級の赤のポーションを20本出した。トレーの明かりが10個点灯した。
「あっ、特級ですね。
1本金貨4枚になりますよ。
これも、例の商人から譲って貰ったのですか?
名前を教えて貰えませんか?
私どもが直接交渉したいのですが、いいですか?」
「それはだめです。名前は教えられません。
直接交渉されると、私が困ります」
「そうですか。残念です」
と、諦めて貰って、代金の金貨80枚をIDに入れて貰った。
私は、定期的に特級の赤のポーションを納品することを約束して、商業ギルドを出た。
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