中編
翌日、僕はチャラ男の通う高校を訪ねた。
そこの応接室で、僕、チャラ男、生活指導の先生で話し合い。
「すんません。俺、なんで呼び出されたんすか」
不機嫌そうなチャラ男。
でも先生はもっと不機嫌そうだった。
「やってくれたな、佐倉」
先生の目付きが凄く怖くなった。
あ、チャラ男の名前は
「お前は他校の生徒、そこの彼に対して暴力行為を働いたそうだな? まったく、なにを考えているんだ」
「はぁ⁉ 俺そんなこと、いや、したかも知んねえけど! それは理由があって!」
そう、今回の来校の理由。
僕はとても暴力的なチャラ男に殴られたから、クレーム入れに来たのだ。
そりゃあ撮影中の出来事だもの、映像は証拠として残っている。しかも前後を上手いこと編集して、明らかに佐倉くんだけに非がある風に見えるよう編集もしといたよ!
なのでその映像を改めて流しておく。
僕が殴られる瞬間を見た先生はぴくりと眉を動かし、佐倉くんは激昂して叫ぶ。
「て、てめえ、やりやがったなぁぁぁぁ⁉」
登録者数七万人の編集技術舐めないでほしい。
これ警察に持ち込んだら傷害とれるよねってレベルの画ができました。
「すみません。今回は、このようなことになってしまい……」
生活指導の先生はしっかりと頭を下げた。
僕は慌ててそれを止めようとする。
「そんな、先生が悪いわけではないです。それに、僕は警察に持ち込むつもりはないんです。ただこんなことがあった、と先生方に知っておいて欲しかっただけで」
「ほ、ほんとうか?」
「はい、もちろんです」
代わりに動画投稿はするけど。
あと、ぶっちゃけ謹慎処分とかはあんまり期待してない。
それよりもこの高校に入ることの方が目的だ。
新しい動画撮りたいもんね。
◆
「ポウっ! ポポウっ! ポウポポウポウっ! どーも、迷惑怪人デバガメンでーす! 今日はぁ、前回の続き! 寝取られビデオレターを撮影する奴らを撮影していきたいと思いまーす」
ということでせっかく佐倉くんの学校に侵入できたので、彼の教室で撮影を開始。
基本クラスの皆様呆気に取られているけど、気にしないでこその炎上系。
「ということで、今日は寝取り間男サークラ・タクマくんの教室にお邪魔してまーす。いやぁ、皆さん驚いてるみたいですねー」
「あのー、すいません。……もしかして、デバガメンさん?」
「おっと、こちらの男子生徒さん! もしや、僕の動画を……」
「あ、見てる見てる。この前の“閑古鳥が鳴いてる飯屋に大食い動画配信者複数連れてって潰したろw”、すげーおもしろかった。結局オチで店の売上上がってだけになったヤツ。あの今日は、動画の?」
「ご視聴ありがとうございます! うん、この教室で撮影をね。あ、皆さんにはちゃんと動画でモザイクカケラかけるんで大丈夫。ターゲットは佐倉くんだけだかね」
ということで僕は二限目の授業前、クラスの皆さんがいる前で状況を説明しておく。
「ということで、教室の皆さんにはちょっと今日の趣旨を説明したいと思います。はい、まずこちらをご覧ください」
周囲の皆様方にご迷惑をかけることの多い動画配信者。
でも僕はちゃんと前もって説明をして理解を得てからの撮影を心掛けている。
配信者も仕事だ。そして仕事だというのなら、関わる人に対する配慮が絶対に必要だと思う。
「えーと、まずですね。とある少年がいました。彼には恋人のK.Kちゃんがいました。そしてC.CにはL.Lがいます。いろいろ言われるけど復活大好きです。で、このクラスの佐倉琢磨君。性格最悪な彼は、少年の恋人のK.Kちゃんにちょっかいをかけて、肉体関係を結びます。例の浮気と寝取られとかそういうシチュなんですねぇ」
クラスがざわついている。
まあいきなり他人の恋愛事情聞かされてもね。
「あ、でも勘違いしないでね! 佐倉くんの名誉のために言っておくけど、これは恋愛上の三角関係じゃないんだ。明確に少年から恋人を奪って見下して嘲笑ってやろうっていうだけの話みたいだったから。つまりは遊びの延長だと思う。実際寝取られビデオレターっていうのを送りつけようとしていたみたいだからそこは間違いない」
変な誤解を受けたらいけないから、ちゃんと説明しといたよ佐倉くん。
自分に暴力を振るってきた相手なのに、誤解されないよう配慮する。まったく、僕ってちょっとお人好しすぎるな。
「あっ、一応ホテルに言った写真とか、記録音声とかあるから前後関係お疑いの方はどうぞ。このクラスに、彼の所属するバスケ部の方いますか? 渡しとくので、もしよろしければ学年の違う子にも見せてあげて。顧問さんにはもう渡してるから大丈夫」
気遣いの人、デバガメンです。
「それでですね。佐倉くんは先日、某ラブホテルで少年を馬鹿にして寝取られビデオレターをとっていた。そんな彼を逆に撮影してみたっていうのが今回の企画です。その一環として、学校での彼の様子を撮れたらと思ってきました。もし、彼に関する質問に答えてもいいよって人がいたらよろしくお願いします。あ、一応プロジェクターで彼のホテルでの馬鹿笑い映像流しておきますね」
弱者男くぅんみたいなところまで。
あと僕を殴ったシーンも編集済みでおまけにつけておく。
あまりに理不尽な彼の振る舞いにクラスの皆さん、特に女子生徒の顔が歪んだ。
「……あの」
その中で一人、なんかいかにも真面目そうなメガネっ娘が手を上げてくれた。
委員長っぽいので……彼女のことは心の中で女豹さんと呼ぼう。風紀を乱す人は許しませんみたいな顔してるけど、どう考えても風紀を乱す側のカラダしてるよね。
「佐倉くんは、この学校では見た目こそ軽そうですがバスケ部のエースで人気のある男子です。恋人もおられます。あの浮気とか、本当なんですか? ……すみません、こんな映像があるんですから、本当ですよねすみません」
「あー、なるほど。自分の生活圏内では綺麗でいたいから、他校の女子にそんな真似をしたってことか。いやー、最悪だね。あ、このシーン動画で使っていい?」
「ええ、どうぞ」
よし、イイsceneゲット。
……なんてしているところで、教室の扉ががらりと開いた。
「てめえ……なにやってんだっ!?」
「あ、佐倉くん、もうすぐ授業だよー。じゃない、ポウッ! さあさ、寝取られビデオレター間男くんの登場です! いやあ、怒ってるみたいだけどどうしたんだろうね?」
「てめえ、本気で舐めてやがんな……!」
なんでか知らないけど、間男くんはすっごく怒ってた。
「舐めてないよっポウ? 君の人となりを聞こうと思って、このクラスの皆に協力してもらってたんだ。なんか、クラスの人気者ポジらしいね? やっぱりそういうのって寝取りに有利だから? 逆に、ストレスが溜まって寝取りに走るの?」
「なにを……っ⁉」
僕に文句を言おうとしたみたいだけど、教室の生徒達に押されて怯んだ。
あ、そっか。皆の前では人気者のタクマ君やってたんだっけ。
「み、みんな違うんだ聞いてくれ! こいつに騙されたらダメだ!」
なんて言い出したけど、残念ながら物証は提出済み。
『騙してたのはお前だろ』
『ないわー』
『ただのクズじゃん』
『さいってー』
『てか寝取られビデオレターとかホントにやるヤツいるんだなw』
『カノジョさんかわいそう……』
クラスの雰囲気は最高に最悪だ。
「な、違う。俺は、俺は……」
言い訳にしようにも言葉に詰まり、結局は僕を睨みつける。
しかもチャラ男はお門違いの憎しみをぶつけに来た。
「そうか、てめえ。春乃宮のヤツに頼まれたんだな!? それでこんな嫌がらせを……」
「そんなわけないだろ。僕はマジメに迷惑系配信者をやっているんだ!」
それには僕もカチンときた。
誰かに頼まれたからじゃない。
僕は僕自身のために動画配信者をやっている。
「そう、僕にも悲しい過去がある。だからこそ、それを乗り越えるために、動画配信者を張り続ける……!」
そうして僕は、近くて遠い悲惨な日々を思い返いしていた。
◆
僕は二回垢転生をしている。
初めにお料理チャンネルだ。漫画やアニメの再現メニューをメインに取り扱っている。
ちなみに初回動画は『機動戦士○ンダム第19話“ラン○・ラル 特攻!”より砂漠の店でアム○に出された飲み物。
つまり水だ。
二回目はあの格闘漫画。
ビ○ケット・オ○バを打倒するために刑務所に収監されバ○が、懲罰房で美味しそうに飲んでいたヤツ。
言い方を変えれば水だ
そして三回目で満を持して、名作賭博漫画のスピンオフ。
ハン○ョウがよく使うホテルの支配人がトイレに閉じ込められた回で、出てきた彼が一気飲みした例のアレ。
なにを隠そう水だ。
なお僕のお料理チャンネルは一切受けなかった。
ということで一回目の垢転生。
今度はこの現代社会で生きる皆に活力を与えたいという気持ちから、ロボットアニメのパイロットスーツをうまく塗り直して、全裸で戦っているように改変した映像を投稿した。
具体的に言うと全裸バニーで紅○聖天八○式を駆る可憐なカ○ンや、謎の空間で全裸するダブル○ーな○那だ。
普通に垢バン喰らった。
そして迷惑怪人デバガメンが三回目。
ここにきて僕はようやく固定の視聴者を得ることができた。
だから、ゼッタイに離さない。
僕は炎上してでも迷惑系動画配信者として必ず成功して見せると心に決めたのだ……。
◆
「だからこそ! 僕は迷惑怪人デバガメンを止めるつもりはない。たとえ佐倉琢磨くんを犠牲にしようとも! 僕にはその覚悟がある!」
「覚悟ってなにお前本気でイカれてんのか!?」
「イカれてなんてない! 僕はそもそもナチュラルボーンにクズ思考がスタンダードだ! つまりこの状態で正常なんです!」
「自覚あんのかよ!?」
あるよ。
あったうえでのこのムーブですよ。
「ところで、カノジョさんいるらしいね? インタビューしに行きたいんだけど、クラス教えてもらっていい?」
「あ、一学年下のB組です」
「ありがとー、女豹さん」
「女豹?」
委員長っぽく風紀乱してる人が教えてくれたのでそっちも行こう。
と、そこでいきなり佐倉くんが突進してきた。
たぶん怒りに任せた行動だ。大きく手を振り上げて、またも僕を殴りつけてきたのだ。
「いつっ……!」
「へっ、へへ。調子に乗ってるからだ」
いやいや、君さっき生活指導されたのもう忘れたの?
でも、僕は殴られてしまった。
なんてひどいんだ。
痛みに苦しむ僕はチャラ男くんの懐に潜り込み、カラダを掴んで、腹に膝蹴りを叩き込む。
「正当防衛」
「ぐっほ……!?」
チャラ男の体が「く」の字に曲がる。
なんか呻いているけど、殴られた分の正当防衛なので問題はない。
「正当防衛」
「ぐぉ!?」
膝蹴り。
「正当防衛正当防衛」
「てめぇやめっ」
膝蹴り。
「正当防衛正当防衛」
「しゃれ、になんねえ」
「正当防衛正当防衛正当防衛正当防衛宮士郎正当防衛正当防衛正当防衛正当防衛正当防衛正当防衛殺正当防衛加虐快楽正当防衛正当防衛」
殴られたお返しに何度かお腹を蹴ると、チャラ男はぐったりしてしまった。
もちろん手加減はしてるので内臓は破裂していない。以前の経験からちゃんと加減を覚えたんだ。
「みなさん、撮影中に大変なことが起こっちゃった。寝取り間男が逆切れして、いきなり殴りかかってきたんだ。僕も護身術的なのをやってるから事なきを得たけど。やっぱり悪い人って、そういう理不尽なところがあるのかな。あ、倒れてる間男くんの顔もアップ……したら名誉棄損で訴えられたら困るから、海外サーバに画像おいておくので、いつもの宝さがし企画に参加したら見れるようにパスあげるよー」
よし、これでひと段落。
「ということで、行くか……1のB」
あ、カノジョとの絡みは割愛します。別に特別なことはないし。
なおここからの話をここに記しておく。
僕がインタビューした後、なぜかカノジョさんは佐倉くんに別れを告げたらしい。
またバスケ部顧問の先生も佐倉くん嬌声退部に踏み切った。強制だった。
不思議なことがあるもんだなぁ。
では次は、ここあちゃんの学校に、撮影に行くとしよう。
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