第13話
あれから、風呂も入り、歯も磨いて後は寝るだけになった。
だけど、さっきからずっとユイがベットの上に座っていて、寝転がれないでいる。
熊耳のパーカーのフードを深く被って、枕をぎゅっと抱いている。
「今日は帰れよ」
「やだ」
身体を揺らして嫌だと露にしてくる。さっきからずっとこれを繰り返している。
俺は疲れてて、今直ぐに寝たい。もういいか?さっきから視界が霞んできてるし。
椅子から立ち上がって、ベットの方に行く。ユイを避けて寝転がる。
もういいや、眠い。このまま寝よう。
「いいの?」
「好きにしろ。もう眠い」
そう言うと、ユイも寝転がってくる。このまま寝かせるのも癪だと思い、ユイを抱き締める。少しは恥らってくれると良いが、こいつには逆効果だったかもしれない。
風呂上がりの良い匂いがする。華奢な身体ですっと腕の中に収まる。
「しゅ、シュウちゃん?」
ユイの慌てる声がする。やってやったと嬉々してそのまま眠りに着く。
「シュウちゃん嫌な事でもあったの?」
眠りに入りそうだったのに、その一言で目が冴えてしまう。
嫌な事なんて一つもない。龍海と居て楽しかったし、嬉しい事もあった。なのに、何でか嫌悪感が胸の中に残っている。
「お前も、どうせ、俺の顔が好きなだけなんだろ。なのに、何でここまでする?」
「むう、まだそう言うの? 顔が好きなだけでここまでしないよ」
そう言って、腰に手を回してくる。
そんなの分かりきっている事だ。顔が好きなだけなら、告白を断られた時点で諦めているはずだって。
受け入れたい。俺もユイの事は好きだ。だけど、俺の中の何かが邪魔をする。
『顔が好き。顔がいい』『秋一くんは、本当にお父さんにそっくりね』『将来はお父さんと同じで俳優になるのかな?』『健人さんと同じで勉強も運動も出来るなんて、凄いな』『宮本って顔いいし、運動も勉強もできるし。将来期待できるよね!』『将来って。あんたいくつよ。でも、宮本と結婚したら冴木健人がお義父さんか! いいよね〜!』『宮本くんって、お父さんと同じでカッコイイよね!』『あいつと、仲良くしてれば女子と関われるし!』「だよなだよな! それ以外は顔は良いし、勉強も運動もできて、ムカつく所しかねえよな」『あの子を褒めてれば、あの人も喜んでくれるし』『そうね、子供好きで助かるわ。これで、私も人気の女優に!』『あはは、それは無理だろ。俺こそ有名な俳優になる!』『それこそ、むり。あら、秋一くん、どうしたの?』
色んな言葉が頭の中を駆け巡る。各々の欲望塗れた言葉ばかり。俺に近寄ってくるのはそんな奴ばかりだ。
気持ち悪い。さっき食べた物が戻ってきそうだ。
「私は優しくて、頼りになって、嫌な事があったら直ぐに気づいて、助けてくれるシュウちゃんが好き。嫌なのにちゃんと最後まで付き合ってくれるシュウちゃんが好き。ちょっと傷付きやすくて、直ぐにウチに来るシュウちゃんが好き。勉強も運動もお義父さん達のお陰じゃない。シュウちゃんがいつも努力している姿が好き」
ユイがまるで自分の自慢をする様に、嬉しそうに楽しそうに言っている。
思った以上によく見ててくれていたんだ。やっぱり、俺はユイが好きなんだと再確認する。
「あと、ちょっと面倒くさい所があって、嫌な事があると直ぐに拗ねたり、誰かに甘えたがる。そう言う面倒くさいところも大好き」
「っ……」
ユイから離れて、反対側を向く。
「えっ、怒った?」
「怒ってない」
「ふふっ、やっぱ直ぐに拗ねる。可愛い」
「っ! 出てけ! そして、二度と入ってくるな!!!」
ベットから追い出そうとするが、抵抗してくるユイ。
「さっき良いって言った!! やだやだ!!」
「うるせー!! さっさと出てけ!!」
「やだ!!!」
舌を出してべーとしてくるユイ。この野郎、さっきまで人を弄ってきたくせに。
「弱ってるシュウちゃんが悪い! そんなの私の母性が許さない!!」
「よわ、! お前の母性なんて知るか!!!いいから、出ていけ!!!」
無理矢理に部屋の外に放り出す。鍵を閉めて入れない様にする。
ドンドンッ、ドンドンッとドアを強く叩く音がする。だが、疲れと眠気が限界だったみたいで気にせず、そのまま眠りについた。
◆◇◆◇
「体調悪いのか?」
「いや、昨日寝るの遅くなって、余り寝れてないんだ」
結局、昨日はドアは叩かれるわ、ドアの前で泣かれるわ、煩過ぎて結局、起きてしまって、それから夜中まで言い合いをして、寝れたのは朝方だった。
そのせいで、疲れも取れず、今朝からずっと机と顔を合わせている。
今日こそ、説教してやる。ビシッと言ってやらないとユイはまた同じ事をする。
「ならいいけど。これどうする?」
そう言ってプリントを見せてくる。あー、修学旅行の班か。HRでそんな事を話してたっけ。眠くて、余り覚えてない。
正直、誰と行っても変わらないから、誰でもいいが正直な答えだ。
「俺とお前と橘に、あと誰にするかな〜。誘いたい奴とかいないの?」
「いないな。誰でもいいから適当に決めてくれ」
「人任せだな。誰が来ても文句言うなよ?」
「うい〜」
適当に返事をすると、はあ、と溜め息をして創は何処がに行く。やっと静かになり俺は顔を伏せる。
俺は授業が始まるまで仮眠を取る事にした。
◆◇◆◇
「お前さ、クラスの連中に恨まれる事好きだよな」
「ふっ。俺は男となんて旅行したくないだけさ!」
爽やかな笑顔で言う創。それが少し似合ってて逆にムカつく。
今は昼休みになり、班が決まったそうで、寝ていたところを起こされた。それて、連れてきたのが、橘に、佐伯と龍海だった。橘は最初から頭数に入っていたが、それにしても何故、佐伯達なのだろうか。創と仲良くしている所は余り見た事がない。
龍海に至っては、接点なんて無いに等しいだろう。
しかも、橘と佐伯はクラスでも人気な方だ。一緒に周りたい男子なんて五万といる。確か、他のクラスの人とも組めたはずだから、更にライバルは増えてたと思う。
「よくもまあ、誘えたな」
「えっ、佐伯達が来たのはお前のお陰だぞ? 」
「俺、何もしてないぞ」
は? と不思議そうな顔をして、直ぐにあ、と何かを思い出した創。
「お前、あれ寝ぼけて言ってたのか。意識があると思ってたわ」
「え? 何を?」
「そうね。私が伝えてあげるわ」
そう言って、何故か怒る寸前の佐伯。額には血管が浮かんでてて、手はぎゅっと握られている。
何もしてないのに、何でそんなに怒ってるんだ。
「貴方が言ったのよね。行くなら、あの鬼とは行きたくないって。それで、誰の事か聞いたら、私だって言うじゃない?」
更に血管が浮かんで、憤怒のオーラが増す佐伯。俺は身体の震えと冷や汗が止まらない。
待て、思い出せ。言葉を聞いたら夢だと思っていた事と合致している。
えっと、確かあれは昼休みに入って間もない時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます