第9話
「よしっ、安全に出来たな!」
「それが当たり前なのよ。普通あんな風にはならないから」
直接言われた訳じゃないが、創と佐伯の会話に不愉快さを覚える。
出来上がった肉じゃがと味噌汁と炊きたてのご飯が目の前に並んでいる。
肉じゃがは時間が無かったのに汁の染みていて良い色になっている。
じゃがいもを箸を入れると、割れるぐらい柔らかくなっていた。箸で掴んでそのまま口に入れる。
ホクホクで良く味が染みていてとても美味しい。味噌汁も調度良い塩味で美味しい。
「んー、美味い」
「美味いな! 今回はガラスの破片入ってないし!」
「そうね。苦くもないし、お米も水浸しじゃないし」
「言いたい放題だな、お前ら」
「言われたくないなら、料理ぐらい出来るぐらいしてきて」
うんうん、と頷く皆。そんな皆に呆れつつ、食べ進めていく。
「ねえ、嫌ならいいんだけど、そのメガネ外してみてくれない?」
「じゃあ、断る」
呆れてはあ、と溜め息を吐く佐伯。嫌ならいいって言ったのお前なのに。
「あ、噂で聞いたけど、メガネ外したらカッコいいって!」
「何だそのデマ情報。誰から聞いた?」
「ん、 一年の子! 何か数人の子達でファンクラブあるんだってさ!」
一年、と言われ、思い浮かぶのが、ユイと木之下か中学が同じだった後輩の人達ぐらいだ。まあ、ユイ達以外には箝口令はしてないから噂になっても仕方ないだろう。
「で? 実際はどうなの?」
「デマだよ」
ええーと可愛らしい悪魔マークの髪留めをつけている藤原がつまんなそうな顔をしている。
創は箸を止めて、コソッと嘘つけと言ってくる。無視して食べ進める。
「ご馳走様」
そう言って、食器を片付けようと流し台に持っていく。スポンジ持って洗剤を付けて洗っていく。すると、佐伯が食べ終わった食器を持ってきた。俺は手を出して受け取ろうとする。
「いいわよ。自分でやる」
「作って貰ったから、これぐらいはやるさ」
じとっと怪しむ視線を向けてくる。
「流石に洗い物ぐらい出来るわ」
「そう。なら任せるわ」
佐伯から食器を受け取って洗っていく。それからは班の分は全部洗って、今日の調理実習は終わった。
◆◇◆◇
放課後になり、ユイ達がいつも通り教室までやってくる。毎回思うけど、キミら来るの早くない? こっちはさっき終わったばっかなんだけど。
「シュウちゃん、怪我してない?大丈夫? 今回は何もやらかしてない?」
「お前もか。何もしてねーよ」
「良かった」
ほっと胸を下ろすユイ。木之下は気まずそうに苦笑いしていた。
カバンを持って教室を出て行く。ぐいっとカバンが引っ張られる。
「ちょっと、何処行く気?」
佐伯が眉間に皺を寄せてこっちを睨んでいた。こいつはいつも怒っているな。若い頃からそうだと、将来、シワが取れなくなるぞ。
「何処って、帰るんだけど?」
「はあ? あんた毎回、ユキに押し付けて帰る気なの?いい加減にしなさいよ」
「わ、私は大丈夫だから」
「良くないわよ。この阿呆、毎回何気もない顔で帰るんだもん。ビシッと言ってやらないと」
あわわ、と慌てている龍海にご立腹な佐伯。話が見えんのだが、俺は何かをしたのだろうか。
「ごめん、俺何かしたか?」
「ほら、見なさい。この阿呆は自分の委員会の仕事すら忘れてるから」
「でも〜」
佐伯に委員会と言われて、はっと思い出す。
やべえ、一回も委員会行った記憶が無い。てか、俺は何の委員会に入ってるかも覚えてない。
「すまん、何の委員会だっけ」
「それすら知らないって……。学年変わって直ぐに決めたでしょ。貴方はユキと一緒で図書委員でしょ?」
たくっ、と嘆息をする佐伯。
「毎度毎度、ユキに押し付けて帰ると思ったら、自分の委員会すら覚えてないとか。怒りを通り越して呆れるわ」
「誠に申し訳ございませんでした。今日は行かせて頂きます」
深く頭を下げて龍海に謝る。覚えてないとは言え、龍海には酷い事をしていた。許して貰えるまで頭を上げない。
「大丈夫だ、よ? 私、本好きだし、一人の方が好きだから。ね? 頭上げて」
「そう言う訳には行きません。この阿呆めに何なりと処罰を」
「え? いや、本当に大丈夫だから!」
「そう言う訳には行きません!!!! 貴女が許しても俺が許せないのです!!! さあ、何なりとお申し付け下さい」
「え、ええ?」
困惑して、目をぐるぐる回している龍海。からかっているのだが、中々つっこんでくれない。まあ、これはこれで面白いからいいけど。
「先輩、それ揶揄われてるだけですよ。頭ぶっ叩いて大丈夫です」
「え? 揶揄う?」
「おい! 人が誠心誠意謝ってるのに揶揄うとはなんだ!!! 龍海様に失礼だろ!!!」
「その言葉遣いが既にからかってるんだよ。本当に叩いていいぞ、龍海」
「いや、それは……」
遠慮をする龍海を見て、じゃあ、代わりにと複数人から頭を叩かれる。理不尽だ。俺は龍海に叩いて欲しかったのに。
それから、ユイ達と別れて、龍海と図書館に向かう。
「いや、本当に悪かったな」
「ううん、大丈夫だ、よ。一人で居る方が気楽だから」
そう言ってくれるのは助かるが、本当に申し訳がない。委員会が変わって以来、ずっと仕事を任せてたんだもんな。
「あ、あのあの! 一人の方が気楽ってのは、宮本君と居るのが嫌とかじゃなくてね!? その、私、喋るのが苦手、だから、あの〜」
目を回して泣きそうになる龍海。取り敢えず落ち着かせる。ユイとは別の意味で調子が狂う相手だ。
「佐伯とは仲良いよな。あの鬼ババアと仲良くなれるだけ凄いわ」
「お、に?」
「いっつも、眉間に皺を寄せてて、怒ってるだろ? あれは将来、眉間の皺が取れなくなって困るタイプだ」
佐伯の眉間に皺を寄せるモノマネをしながら話す。すると、クスクスと笑う龍海。お、やっと笑ってくれた。
「笑うと可愛いな」
「へえ? か、可愛い!?わ、私なんて可愛くないよ!?」
「十分可愛いだろ」
ふえええ〜と声を出して顔を真っ赤にしている龍海。前髪で良く見えないが、端正な顔立ちをしている。顔も小さいし、前髪を切ったら男子ウケしそうだけどな。
そう話をしていると図書館に着いて、中に入っていく。
中はズラっと木製の棚が並んでいて、本が綺麗に整頓されている。本を読む為の椅子や机も結構な数が置かれている。結構な広さだ。本棚が奥に見えないぐらい並んでいる。
「で、何すればいい?」
「あ、えっと、返す場所が分からなくなった本を戻しに行ったり、新しいく入った本を並べたりかな? 後は受付をするぐらい」
「分かった。じゃあ、本を戻してくるから、受付任せてもいい? 終わったら手伝いに行くから」
「うん、分かった」
龍海と別れて、仕事をし始めた。
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