第4話

「疲れた……」


 あれから、授業サボって怒られるわ、廊下走った事も怒られるわ、教室に戻ると佐伯がハサミを構えて待っているわで、午前中だけで一日の体力を使わされた。


「よしよし。シュウちゃんお疲れ様〜」


 頭を撫でてくれるユイ。こう言う時は癒しになるな。


「お前、本当は好きだろ。ユイちゃんの事」

「なわけ」

「じゃあ、止める」

「ちょっと、ほんのちょっとはは好きです」

「んー、まあいっか」

「良いの!?」


 慰めを続行してくれるユイ。相変わらずチョロい。いや、言った事は嘘ではないけど。


「やっほー! 大変だったね!」


 二人の女子がこっちにやってきた。一人は兎のヘアピンをしたロングヘアの女の子は橘で、黒髪ショートの女の子は古西だ。古西は小林の彼女で、よくちいちゃん、タケちゃんと仲良さそうにしているのを見る。


「煽りに来たなら、帰れ」

「酷っ! まあ、私達の目的はこっちなので!」


 そう言って、ユイを抱き締める橘。ユイは困惑した様子で固まっている。


「やばっ! 髪サラサラ! 肌もすべすべ!顔ちっさ!」

「わあ、すべすべなのに、モチモチもしてる! しかも、良い匂いする! 」

「!?!?!」


 やりたい放題にされているユイ。助けてほしそうにこっちを見ているが、無視して創に買わせに行った菓子パンを食べる。


「良いのか?あれ 」

「良いだろ。嫌そうにはしてないし」

「いや、泣きそうな顔してるけど」

「あー、あれは、ヤバいかもな」

「なら、助けてやれよ……」


 今にでも泣きそうな顔をしている。面白いので放置してやろう。いい気味だ。いつも俺を困らしてくるんだから、たまには困ってもらわないと。


 その後、自力で脱出して、俺の後ろに隠れるユイ。


「あ、ごめん。嫌だった?」

「嫌では……嫌です」

「おお、これは大分、嫌われてるね」

「お前らが、初対面であんなにベタベタするからだろ」


 あはは、と笑ってて全く悪気が無さそうにしている橘。古西は手を合わせて、ごめんね、と言っていた。


 ユイは初対面には人見知りをするが、今回は橘達が悪いな。未だに、警戒して橘を見ているし。


「ごめんねー私は橘 美里!」

「私は古西 千代だよ〜」

「……相川 ユイです」


 よろしくねーと古西の手を握るユイ。橘は手を出すが、ユイはチラッと見て無視をする。ガーンと口を大きく開けて落ち込んでいる。


「ごめんよ〜もうしないから〜!」

「……近寄らないで下さい」


 抱きつこうとした橘をさっと避けて、また俺の後ろに来るユイ。橘は目を潤わせてこっちを見てくる。


 何故、俺に助けを求めてくるんだ。自業自得だろ。


「はあ。ユイ、許してやれ」

「分かった。橘先輩」

「何!!!」

「私の近くに来る時は、十メートルは離れて下さい」

「えっ、それはどうして?」

「言わないと分からないんですか?」

「……いえ、分かりました」


 ショボーンと肩を落として落ち込む橘。ユイはさっさと後ろに隠れてくる。


「ユイちゃん、おいで〜」


 古西に呼ばれて、ユイは古西の方に行く。するとぎゅっとユイを抱き締める。今度は嫌そうにはしてはおらず、嬉しそうにしている。


「私もー!」


 橘が抱きつこうとしたら、手を前に出してそれ以上近寄るなと合図をしてくる。


「何で、私だけ……」

「お前が悪いに十点」

「自業自得に十点」

「酷っ!!!ねえねえ、宮本くぅん〜相川さんに取り合ってよ〜」


 そう言って後ろに回って首元に腕を回してくる。ユイにされるのはともかく、他の女子にされるのは悪い気がしない。


「……シュウちゃんから離れて」

「ええ〜どうしよっかな〜」

「離れて」

「あ、はい……」


 ドスのこもった声で言われ、橘は離れる。ユイは直ぐにぎゅっと前から抱きしめてくる。いつもは腕ばっかりだけど、顔で感じる方がいつもより柔らかく感じる。


「暑苦しい。離れろ」

「やだ」

「胸当たってるけどいいのか?」

「いい。寧ろもっと感じて」


 そう言って、更に強く抱き締めてくるユイ。ユイの胸元顔が、埋まる事はなく、柔らかい様な硬い様な感触になる。


「相変わらず、大胆だな」

「これが、恋する乙女なのか」

「いや、私はそこまでしないよ?」


 創と古西は呆れた様な気まずそうな顔をしていた。


 周りからの嫉妬や殺意が混じった視線も感じる。そろそろ離すか。じゃないと、俺の命も危ない気がする。


 ばっと力づくでユイから離れる。


「あ、むう」

「もうお前は帰れ」

「ええ、人の胸は堪能してたのに。それは酷くない?」

「昼休みがもう終わるんだから、帰れ」

「大丈夫、一分で戻れる」


 ドヤっと胸を張ってくるユイ。走れば帰れない事も無いだろうけど、流石に危ないのでささっと帰らせた。


 やっとユイが帰った。残り五分ぐらいの昼休みは寝て過ごそう。創に起こす様にお願いをして、腕を上げ枕にして少し仮眠を取った。


◆◇◆◇


「おき……」

「ん?……眠い」

「いい加減起きろ!!!」


 頭を何か硬い物で殴られる。ズキズキと痛む頭を押さえて、起き上がる。


 目の前には額に血管を浮かせている先生が居た。手には出席簿を持っていた。


 それで、殴ったのか。教育委員会に訴えてやろうか。


「先生、俺は眠いです」

「ほおーそんなに、俺の授業は聞きたくないか」

「そう言う訳ではありません。眠いだけです。おやすみなさい」

「コラっ! 寝るな!」


 もう一度寝ようとしたら、また出席簿で殴られる。


 痛い。これたんこぶ出来てね? 本当に教育委員会に行くぞ。


 渋々、起きる事にした。教科書とノートをカバンから取り出してと。未だに先生が居る。


「もう行っていいですよ? 起きたんで」

「お前………まあいいわ。あと、宮本、いくらモテないからってその髪はどうかと思うぞ?」

「は? セクハラですか? 止めて下さい」


 先生が引き攣った顔で言ってくる。先生までこの髪型をバカにするとは。ここは言ってやらないと気が済まない。


「ん?」


 先生に物申してやろうとしたが、隣を見ると、必死に声を押さえて、笑っている創が居た。不思議に思って周りを見ると、皆こっちを見て笑いを堪えている。


「??」


 何が何だか分からない。いつもはこんな風に見られたりはしないんだが。まあ、これ以上、授業を遅らせるのは申し訳ないから後で聞いてみよう。


「えっ、そのまま、ぶっ! や、やるのか?」


 笑うのを我慢して声が震えている遠藤。人の顔を見る度に笑うの我慢している。そんな可笑しな顔をしてないはずなんだが。そろそろ腹が立ってくる。


「おい、何で笑ってる?」

「いや、その、その頭……あはは!!!無理!!!もう我慢できん!!!あははははは!!!!」


 遠藤が笑いを堪えられず、大声を上げて爆笑をすると、教室に居た全員が同時に爆笑をし始めた。


 え、何? 本当に何だ?


 後ろから肩がぽんぽん、と叩かれる。後ろを向くと、龍海が笑いを堪えようと我慢して、手鏡を渡してきた。


 俺は受け取って、不思議思いつつ、自分の姿を見た。


「なんじゃこりゃ!?」


 自分の姿を見て驚愕した。だって、いつの間にか髪がツーサイドアップになっていたのだ。しかも、リボンが付いたゴムで結ばれていた。


 すると、皆が笑う疑問が解けて、心の底から怒りが沸騰してくる。


「誰だ!!! こんな事をしたのは!!!」

「あはは!!!無理!!! 止めて!!そのまま怒らないで!」

「にあ、ぷっ! ってるぞ!!! 宮本!あはは!!!」


 恥ずかしさと怒りの気持ちでいっぱいになる。こんな事をするのは、あいつしか居ない。


「おい! 創!」

「いっ、言っとくが、おおれ、じゃない、あははは!!!!」


 涙を出し、腹を抱えて笑う創。違うにしても、イラッとするから後で殴ろう。 じゃあ、誰だと思い、昼休みを思い出してみる。


 そこで、やりそうなやつに一人心当たりがある。


「おい!! 橘!!!」

「言っとくけど、わ、私じゃ……ぶっ!」


 橘にも否定されてしまった。だが、これ以上、他にやるやつが見当たらない。俺は煮えかえる怒りを我慢して席に座り直す。髪ゴムはさっさと取ってやる。


「ま、まあ、続き、ぶふっ! やるぞ〜」


 あの先公許さねえ……。それから、たまに思い出し笑いをする声が聞こえたりと最悪な時間だった。

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