第2話
昼休みになり、昼飯を食べる準備をする。
先程、購買の激戦を制して、俺は焼きそばパンを手に入れた。柔道部やレスリング部、野球部と高校生とは思えない身体付きをした人達の中から取ってきたため、身体のあちこちが痛む。
「お前はいいよな。俺なんて、おにぎり一個だぞ……」
そう言って、目の前で机にへたれこむ
こいつは、熊切 創。中学からの友達だ。
耳にかかるぐらいの茶髪で、女子に持てるぐらいには端正な顔立ちをしている。身体は筋肉が付いてて、結構がっちりとしている。
へたれこむ創の前で美味しそうに食べてやる。
「ん〜! このの濃厚な味の焼きそばとパンが絶妙にマッチしてて美味いな!」
「ちっ。下手くそな食レボ聞かすなよ」
機嫌を悪そうに眉間に皺を寄せて見てくる。それを気にせず、美味そうに焼きそばパンを食べてやる。
「でもさ、すげえよな経った二週間で、学年問わず、一年から三年まで憧れの的になってんだもん」
「そうか。良い事じゃないか」
呆れた様にジト目で見てくる創。はあ、と溜息をついて、
「あのな、そうなったら、ユイちゃんが他の男に行っちゃうかもしれないんだぞ?」
「俺的にはそれが助かるな。高校はあいつに邪魔されずに平穏な生活が送れそうだし」
創が言いたい事が分からないが、ユイが他の男に行くなら、それは本望だ。毎度毎度、休み時間になったら来るから、クラスのやつらも遠慮して余り話しかけてこなくなってしまった。
一年の頃は話をしていたやつらも、嫁さんとイチャイチャしてる姿を見たくないとか、美少女が近くにいるとか無理とか、後は、諸に死ね!と言ってくるやつもいる。
そんなこんなで、昼休みを共にする友人が創以外に居ないのだ。
「そう言えば、今日は来ないんだな」
「ああ、怒ったからな。多分、もう来ないぞ」
「ひでえ〜。あんなに世話してくれる子そうそう居ないのに」
呆れた顔で言われる。そんなに良いものでもないけどな。毎日毎日、俺のプライバシーを侵害しては、何とも思ってない顔でシュウちゃん!と呼んでくるんだぞ。恐怖でしかないわ。
「おっす〜」
紙パックの牛乳を持ちながらこっちに来たのは、頭は坊主で高校生とは思えないぐらい肩幅が広い如何にも体育会系な男子生徒──小林だ。
そのまま近くの椅子を持って、座ってきた。
「今日は夫婦で居ないんだな!」
「お前まで何言ってやがる……。俺とユイは夫婦じゃないぞ」
「へいへい〜。で、さっきから覗いてる嫁さん放置で良いのか?」
「おい、違うって……は? 覗いてる? 」
適当に返事をしてくる小林を言い返そうとしたが、小林が言った事に気づいて、入り口の方に視線を向ける。
そこには身体半分だけ出して、隠れてるつもりなのかは知らないが、ユイが居た。
あいつ、来るなって言ったのに。目が合うとささっと隠れて、また顔を半分だけ出してこっちを見てくる。
立ち上がって、ユイの所に行く。
「おい、何してんだ?」
「いや、そのー一緒にお昼食べたくて……」
「来るなって言ったよな?」
「でも〜」
「でもじゃない」
「あうっ!」
頭にチョップを入れる。頭を押さえて、目を潤わせて上目遣いで見てくる。
可愛い。このまま許してしまいそうになるが、俺は騙されたりしない。これは、ユイの常套手段だから。
「帰れ」
「良いじゃん。ここまで来たんだし、一緒に食べれば」
「ほら! 創くんもこう言ってるし!」
「創、甘やかすな。ユイも調子に乗るな」
「ええ〜」
それから、俺は譲らず、ユイと創がだだを捏ねてお願いしてきたが、ユイを帰らせた。ユイは最後までこっちをちらちら、見てきたが、無視をして席に戻った。
「酷いな、お前」
「うるせー言ってろ」
あそこで、甘やかす様なら調子に乗って、次の日も次の日もやってくるんだ。俺の平穏な昼休みを汚されてたまるか。
それからは、いつもの平穏な昼休みになり、昼飯を食べ終えた。
◆◇◆◇
キ──ンコ──ンカ──ンコ──ン。
授業の終わりのチャイムが鳴る。先生がチョークを持った手を止める。
「今日はここまで。ちゃんと予習する様に!」
そう言われ、教室内は一気に穏やかな空気になる。皆、教科書やノートをしまって、帰りの支度をする。俺もささっと教科書やノートをしまって、カバンを持つ。
「帰ろうぜ〜」
「おう」
創が来て、そのまま一緒に教室を出て行く。すると、直ぐにダダダダッと音がして、何かがこっちに向かって走ってきた。
「シュウちゃあああん!!!!」
避けるのが間に合わず、腹部に激しい痛みが走る。倒れはしなかったものの、腹が痛く、その場に座り込む。
「一緒に帰ろ!」
「てめえ、まず言う事があるだろ……」
何気ない悪意を感じない顔でこっちを見ているユイ。自分が悪い事をしたって自覚はあるのだろうか。いや、ないな。顔を見れば分かる。
腹を押さえながら、何とか立ち上がる。立ち上がって直ぐに、力を込めて頭をチョップする。
「あうっ!」
頭を押さえて、こっちを目を細めて睨んでくる。そのまま置いていこうと歩いていこうとするが、腕にがしっとしがみついて離れようとしない。
「歩きにくい」
「我慢して」
「っ……。はあ」
これに使う体力が勿体ないので、そのままにする。それに、ユイの柔らかな感触が伝わってくるので余り悪い気もしない。贅沢を言うなら、もう少し大きい方がいいかな。
「いだっ! 何する!?」
「今、絶対に失礼な事を考えたでしょ」
じっとジト目で見てくるユイ。そんな事は無い、と誤魔化しておく。何で分かるんだろ。昔っから、こう言う事は何度もあったけど、こいつはエスパーなのか?
考えても分からないので、頭の隅においやる。
「あ、居た」
「美優奈ちゃん!」
「置いて行くなんて酷いよ」
下に降りる階段の所まで来たら、ユイの友達の
艶やかな金髪を肩まで伸ばしていて、一際目を引く長い睫毛に覆われた瑠璃色の瞳。彫りの深い顔立ちでユイとは正反対に美人な女の子だ。
木之下とは中学からの知り合いで、この我儘の権化のユイに飽きずに一緒に居てくれる良い人だ。
「えへへ、ごめんね」
「良いけど。てか、あんたも居んの?」
「おう、居て悪いか? 無駄に睫毛長女」
「ああ? そっちこそ茶髪にして、高校デビューか? 茶髪にすればモテるって安易過ぎるでしょ」
「「ああ?」」
お互い顎を突き出して睨み合う。昭和のヤンキーじゃないんだから止めて欲しい。
周りの人達がなんだなんだと集まってくるので、ユイと一緒に二人を連れて下駄箱まで向かう。
「おい、シュウ。こいつも一緒に帰るのか?」
「はあ? 嫌なら、あんた一人で帰れば?」
「「ああ?」」
下駄箱に来てまで、喧嘩をする二人。まあ、これも毎度の事なので慣れてはいるが、いい加減見飽きてきたな。
「いい加減にしろよ、お前ら」
「ほら、あんたのせいで怒られたじゃない」
「てめえのせいだろ。シュウさっさと行こうぜ」
ぐいっと腕を引っ張られて連れて行かれる。ユイが慌てて追いかけてきて、空いていたもう一つの腕に抱きついてくる。
「相変わらず、モテモテだね」
「野郎と変人に好かれても困る」
「シュウちゃんそれだと、創くんしか居ないよ?」
不思議そうに首を傾げているユイ。この世には知らなくて良い事もあるので、何も言わず頭をぽんぽんとして、撫でてやる。
「その哀れみの目は何? あ、撫でるのは止めないで」
「いや、変人はゆ、ぐふっ!」
要らん事を言おうとしていた創の腹部に肘打ちをして黙らせる。ケラケラ、と楽しそうに笑う木之下をこの野郎、と言って睨んでいる創。お前ら、ほんっと仲良しだな。
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