一年間で幼なじみに落とされる話(仮)

南河原 候

第1話

 四月中旬。


 桜もそろそろ散り始めて、鮮やかな葉桜へと変わっている。満開咲き誇っていたのを思い出すと、寂しい気持ちになる。


 だが、とても心地良い春風が吹いて、まだまだ春が続くと教えてくれる。例年と比べたら今年は涼しくなりそうだ。


 俺は宮本 秋一みやもと しゅういち。青波高校に通う二年生だ。


 少し前までは、新入生の歓迎や部活の勧誘で慌しかったけど、今は落ち着きを取り戻しいる。


 友達と話しながら通う人や本を読みながら一人でいる人、女子を囲ませて俺スゲーアピールをしている人も居る。


 その中、俺も一人で通学をしている。特にする事もないので、周りに気を配りながら歩を進める。


 あ、友達が居ない訳じゃないぞ。自慢できる程には居ないが、それなりはいるぞ。


 いつもは一緒に行く男友達と行くのだが、用事があるそうで先に学校に来ている。


 靴箱で、上履きに履き替えて、自分の教室に向かう。


 踵を返した、瞬間に後ろから自転車に突っ込まれたかってぐらいの衝撃を受けて、腰がボキッと変な音を立てた。


 俺は踏ん張り切れずに、その場に倒れて床に頭をぶつけてしまう。


「いてえ……」

「シュウちゃん!? 何で先に行くの!!」


 そう言って、悪びれる素振りも見せず、片頬をぷくっと膨らませて怒っている女の子。そのまま腹の上ぐらいに乗ってきて、ぎゅっと脚に力を入れて逃げられない様にしてきた。


 腰まであるぐらいの色素の薄い髪。光に当たると少しピンク色がかかって見える。幼い顔立ちだが、端正で一際目を引く可愛いさだ。


「おい、降りろ」

「 好き!私と付き合って!」


 会話が噛み合わず、額に血管が浮かび上がる。このまま顔面を殴ってやりたいが、ぎゅっと拳を握って、我慢する。


 彼女の名前は、相川 ユイ。家が隣同士の幼馴染だ。


「そんな事はどうでもいい。降りなさい!」


 頭に少し強めにチョップを入れる。


「痛い! 女の子に暴力はふっちゃいけないんだよ!」


 なんだその、差別発言は。男でもダメだろ。


 いいから退け、と言って脚を引っこ抜く。段々と騒ぎを聞いた人達が集まってきていた。


「なになに! どうしたの!」

「いつものよ」

「あー、ね。毎朝よくやるね〜」


「飽きずによくやるよなー」

「俺だったらあんな可愛い子だったら、即OKなのに!」

「死ね死ね死ね死ね。コロスコロスコロス」


 最後、ヤバいのが聞こえた気もするが、騒ぎを聞きつけてきた人達は呆れて行ってしまう。


 それを聞いて、少し恥ずかしくなる。


 もう、アレ、で通用するのかよ。そりゃあそうか、入学式から毎日こうしているのだから。


 入学式の時もユイは盛大にやらかしてくれた。


 ユイは新入生代表に選ばれて、スーピーチをする事になったのだ。


 最初はよかった。準備された言葉を淡々と言っていくだけだったから。だけど、最後にやらかしてくれた。


「最後に。私は宮本 秋一が好きです!!!! それ以外には興味ありません!!!! シュウちゃん!私と付き合って!!」


 思い出したくもない記憶だ。それからと言うものの、学校中の男子達に憎悪に満ちた視線を向けられている。


 全てが、最悪だ。平穏に過ごせていた学校生活が不穏に満ちた生活に変わり、殆どの男子から嫌われる存在になった。


 身体に付いた砂埃を払って、教室に向かう。


「あっ、待って!」


 ユイが追いかけて来て、腕に抱きついてくる。それを引き離そうと、腕を抜こうとするが、がしっと掴まれていた。


「先に行った罰! ほら、行こ!」


 何気もなく腕を引っ張て行くユイ。その笑みに少しドキッとしてしまう。


 ユイは見た目は天使みたいだけど、俺はこいつの本性を知っている。


 俺だって、こんな可愛い子に告白されたら、即了承してしまう。だけど、昔こいつはハッキリ言いやがった。


「顔がいい!」


 と。


 そんな事を言われたら、付き合う気すら失せてしまう。


 親父が元モデルの俳優で、母さんも端正な顔立ちをしているから、俺はその遺伝子のせいで顔は良い方らしい。


 だから、昔からユイみたいなのは多かったけど、その頃は男と遊んでる方が楽しくて、断っていた。


 ハッキリ言えば、ユイが初恋の相手だったんだ。諦めずにずっと好き好き言ってくれて、それに容姿も良いとなると、誰でも好きになってしまう。


 なのに、顔がいいって…………。あんまりだと思わないか? 好きな人が顔が好きって言って貰えるのは嬉しいものだと思う。


 だけど、外面しか見てない奴と付き合っても、ろくな事にならない。だから、好きでもユイこいつとは付き合わない、そう決めたんだ。

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