第52話 ある男の正体

 ついにたどり着いた最深部。

 そこで待っていた者は———


「やっときたね。ボクは君達を、正確に言うと君を待っていたんだ」


 白の長い髪を一つにくくり、青い瞳で強者の雰囲気を醸し出している男だった。男は私を指差し、待っていたと言った。一度も会ったことがないはずなのに、なぜ私のことを待っていたのだろうか。なぜ私のことを知っているのだろうか。


「私を待っていたってどういうことですか?」


 私は警戒心をあらわにして男に聞く。

 男は笑った。


「そんな丁寧に話さなくてもいいのに。そうだなぁ、ボクはね君がくることをずっと前から知っていたんだよ。ボクがこの世界の危機を救った時からね」

「ずっと前から?危機を救った?」


 意味の分からないことを言われた。危機を救ったということがあまり理解できない。


「あれ、救世主の話聞いてない?」


 男は首を傾げて不思議そうにしている。

 救世主……それはラビに聞いた。

 まさか、この人が?


「聞いてはいたけれど、貴方がそうなの?」

「そうだよ〜」


 男は顔の横でピースをした。

 信じたくはないが、どうやら真実のようだ。私も途中から考えていたのだけれどね。『あの男』は私のように日本からきた人だとしか思えなかった。

 ラビに初めて会った時に驚いていたのだから、救世主以外に人がきたことはなかったのではと考えついた。

 

 実際そうだとは思わなかったのだが。だって、動物の暴走を止めてこの世界を救った人物がなぜダンジョンを作って暴れさせたのか。それと結びつかなかったのだ。


「なんでこのダンジョンを作ったの?なんでビラを、大きな動物をボスにしたの?どういう想いで誘っていたの?」

「フフッ、質問が多いね。まあ気になるのも無理はないかな。それを語るには、少々ボクの話につきあってもらうよ」


 男は面白そうなことを語るかのようにニヤッと笑い、話し始めた。


「ボクはある日気づいたんだよ。というか、見えてしまったんだ将来のビジョンがね。あれは救世主としてこの世界に呼ばれ、文字通り世界を救ったあとだった。ボクが止めたはずの暴走がまた起こる未来。ボクはまた止めようと思った。しかし、そのビジョンにボクはいなかったんだ。それなのに、止まっていた。どうしてだと思う?」


 男は私に聞いてきた。

 ビジョンが見てたという話からついていけてないのに……


「なぜだと聞かれても分からないよ」

「フフッ、そうだよねぇ」


 私がそう言うのを分かっていて聞いたようだ。少し性格が悪いところがあるのかもしれないなあ。まあそんなことはどうだっていいか。


「ボクが見たのはね、君が動物達を止めているところだったんだよ」


 男は続けて言った。

 一度で理解することができず私は首を傾げる。そんな私にかまわず


「だからボクはこの場所を作ろうと思った。君が力をつけるための場所を作ろうと思ったんだ。くる保証はなかったけれど、きたらちゃんと分かるようにしていたし君ならここにくるとも思っていたよ」


 と、続けた。

 私を強くするためにダンジョンを作ったということか。私が未来のビジョンで動物を止めていたからそのために?信じ難いが、信じるしかないみたいだしなあ。


「ビラ達を誘ったのもそういうことなの?」

「うん。ボクが会って、強いなって思った子を誘ってみたんだ〜いつのまにか十二支の動物が揃っててびっくりしたよ」


 頷いて笑った。

 自分にも想定外だったようだ。強いと思った子を集めたと言うだけあってどれも強かった。どうやって出会ってきたのかを聞く気はないけれど、集めるのは大変だっただろう。


「倒したら消えてしまったのはどうして?」

「そういう契約にしていたんだ。ボクが誘った子達は何か満たされないものがあった。だから、その隙間を埋められたら……そんな感じでね」


 契約か。ビラがそんなことを言っていたが、そのことだったのか。

 満たされたら消える、ねえ。残酷な気もするが、確かにどの子も満足していた。消えるというのは悲しいけれど、当人がそれに納得してこのダンジョンのボスになったのなら私に何かを言う権利はない。


「そうだったんだ。それで、貴方もまだ満たされてないの?まあ、ダンジョンを作った張本人ならそんな契約関係ないのかもしれないけどさ」


 私が言うと男は大口を開けて笑った。


「あっ、ははっ、ボクが満たされてないって?君面白いこと言うんだねえ。でも、あえて言おうか。正解だよ」


 正解。つまり、満たされていないと感じているということ。それはどうすれば、何をすれば満たされるものなのかな。


「やっぱりそうなんだ。貴方のしたいこととか足りないものって何?一緒にできることならやるよ」


 私にできることがあるかは分からない。

 目の前に心が満たされていない人がいる、しかも未来のことを考えてこんな場所を作る人だ。それなら、力になれることはしたいって思うんだ。


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